うつ病の軽減には、ケルセチンの摂取と運動との併用が有効である
出典: Bulletin of Egyptian Society for Physiological Sciences 2024, 44, 54-68
https://besps.journals.ekb.eg/article_348703.html
著者: Hanan M. Abdallah, Rehab M. El-Gohary, Haidy Khattab, Eman E. Farghal, Maram M. Ghabrial, Al shimaa Abo alsoud, Ahmed Fouad Hashad
概要: うつ病とは、気分の落ち込みや喜びの喪失が約2週間続く気分障害に加え、眠れない、食欲がない、疲れやすい等の身体的症状も現れます。その主な原因として、脳内の神経伝達物質が不足することが知られていますが、ケルセチンが神経伝達物質を活性化してうつ病を改善することを、以前の連載で述べました。今回の研究では、ケルセチンの摂取と運動の両方ともうつ病を改善しますが、両者を併用すると更に効果的であることが示されました。
ラット50匹を10匹ずつ、5つのグループに分けました。1)は正常なラットで、2)~5)は細菌の毒素で人間のうつ病と似た状態を誘発した後、以下の処置を10日間施します。2) 対照として処置なし、3) ケルセチン40 mg/kgを毎日投与、4) ルームランナーの小型版で毎日運動、5) ケルセチンと運動の併用で3)と4)の組合せ処置。10日後に強制水泳試験という、強制的に水中に放り込みむ実験を行いました。正常な状態なら助かろうとして本能的に手足を動かしますが、うつ状態にあると諦めてしまいます。そのため静止している時間が長いほど、うつの状態が深刻であることを示します。静止時間の平均は1)の20秒に対して、2)は150秒と極端に長くなりました。ゆえに、毒素がうつ状態を誘発したことを反映しています。3)と4)はそれぞれ75秒と78秒であり、ケルセチンと運動による改善効果を示しています。併用した5)では28秒であり、正常の1)とほとんど変わらない状態まで改善しました。動いている時間も比較しました。1)~5)それぞれのデータは210秒、45秒、120秒、115秒、195秒で静止時間の裏返しとも言えますが、注目すべきは、ここでも1)と5)とがほぼ同じである事実です。
次に尾懸垂試験という、別のうつ病の評価試験を行いました。尾を固定して逆さ吊りにする実験ですが、強制水泳試験と同様に、静止時間の長さがうつ状態を反映します。1)~5)における静止時間は140秒、195秒、160秒、165秒、145秒でした。ここでも、ケルセチンや運動の単独処置に改善効果を認めますが、正常値とはまだ開きがあり、両処置の組合せが正常値に近づけました。
最後に、脳内のセロトニンという神経伝達物質の量を比較しました。セロトニンが不足するとうつの症状が深刻化することが知られています。現在使用されているうつ病治療薬の一部には、脳内のセロトニンの減少を防いで一定量を維持する働きがあります。従って、セロトニンの量でうつの状態を知ることも出来ますが、得られた1)~5)のデータは10.0 ng/mg、5.0 ng/mg、7.3 ng/mg、7.1 ng/mg、9.0 ng/mgでした。先述の2種類の実験における静止時間の結果と良好に一致しており、ケルセチンにも運動にも一定の効果はありますが、両者の併用処置が最も良好な結果を与えました。
キーワード: うつ病、ケルセチン、運動、強制水泳試験、尾懸垂試験、セロトニン