ケルセチンは、人工的に老化させた細胞を除去する
出典: Scientific Reports 2021, 11, 23237
https://www.nature.com/articles/s41598-021-02544-0
著者: Elena Zoico, Nicole Nori, Elena Darra, Maela Tebon, Vanni Rizzatti, Gabriella Policastro, Annamaria De Caro, Andrea Petronio Rossi, Francesco Fantin, Mauro Zamboni
概要: 熱・紫外線・化学物質・微生物など、様々なストレスを細胞に与えると、細胞は何らかの損傷を受けます。軽微な損傷なら修復作用が働きますが、修復できない程の重篤な損傷の場合、もはや細胞の増殖は不可能となります。この増殖不可能な状態でありながら、死には至らない細胞を「老化細胞」と呼びます。動脈硬化が起こっている冠動脈には、老化細胞が蓄積していることが知られています。また、加齢による肺機能の低下は、老化細胞を除去すれば改善することも知られています。このように、様々な病気の原因である老化細胞を除去する治療法が、広く研究されています。
今回の研究では、まず、過酸化水素で人工的に細胞を老化させます。その後、ケルセチンを添加すると、老化細胞が除去されることが見出されました。
脂肪細胞とは、脂肪組織を構成していますが、前脂肪細胞が分化して作られます。ゆえに前脂肪細胞は若い細胞、脂肪細胞は成熟した細胞と見なすことができます。前脂肪細胞も脂肪細胞も、細胞の若さとは関係なく、過酸化水素で処理をすると同じように老化しました。老化細胞には、特有なβ-ガラクトシダーゼという酵素があります。この酵素は、特別な染色剤を施すと青色を呈します。逆に言うと、青色を検出して老化細胞の存在を判断することも可能です。過酸化水素で青色を呈した前脂肪細胞と脂肪細胞にケルセチンを作用すると、青色が薄くなりました。老化細胞がケルセチンで除去されたお陰です。
次に、SIRT-1という長寿に関連する遺伝子を調べました。前脂肪細胞・脂肪細胞の両方とも、過酸化水素の処理では、SIRT-1は増えも減りもしませんでした。ところが、ケルセチンを添加すると、SIRT-1は顕著に増えました。
ケルセチンは老化細胞を除去した上、長寿遺伝子まで増大しました。
キーワード: 前脂肪細胞、脂肪細胞、過酸化水素、β-ガラクトシダーゼ、ケルセチン、老化細胞除去