ケルセチンは神経伝達物質を増強して、記憶機能障害を改善する
出典: Metabolic Brain Disease 2022, 37, 265–277
https://link.springer.com/article/10.1007/s11011-021-00861-x
著者: Juliet N. Olayinka, Anthony Eduviere, Olusegun Adeoluwa, Elizabeth Akinluyi, Abiola Obisesan, Oluwole Akawa, Adeshina Adebanjo
概要: 認知機能は、記憶・判断・計算・理解・学習・思考・言語と多岐にわたりますが、脳に神経が伝わることで発揮されます。その担い手は、脳神経に存在する神経伝達物質と呼ばれる化学物質で、約100種類ほど知られています。その中でも、アセチルコリンという神経伝達物質は、記憶や学習で重要な役割を果たします。アルツハイマー認知症にかかると、脳からアセチルコリンが極度に減少して、神経伝達が不活発になるため、記憶障害や行動障害を始めとする諸症状が見られます。
今回の研究では、アセチルコリンの働きを弱めたマウスの記憶障害を、ケルセチンが改善しました。
アセチルコリンによる神経伝達を遮断する神経毒をマウスに飲ませ、記憶障害を惹起しました。神経毒とケルセチンを同時に飲ませたマウスと、記憶力を比較しました。
記憶力の評価には、Y字迷路試験という実験を行いました。マウスが通れる3本のアームを用意して、Y字につなぎます。この中にマウスを入れ、5分間自由に行動させた後、試験を開始します。マウスが餌を求める際には、未知の場所に入る習性を利用する実験です。3回連続して異なったアームに入った回数を数えます。この回数の割合が多い程、前に入ったアームがどれかを覚えていますから、短期的な記憶を評価する指標になります。神経毒もケルセチンも飲ませないマウス、すなわち正常のマウスでは、該当の割合は75%でした。しかし、神経毒で記憶障害があると50%に落ち込みました。ケルセチンを同時に飲ませたマウスでは、73%と正常近い行動で、ケルセチンの効果を示しました。
実験終了後、マウスの脳内を詳しく調べました。アセチルコリンを作る酵素を調べたところ、神経毒のマウスでは殆ど消滅してない状態でしたが、ケルセチンのマウスでは正常と変わりませんでした。アセチルコリンを分解する酵素は、その反対で、神経毒は顕著に増やし、ケルセチンでは増えません。アセチルコリンの生成を活性化し、分解を抑えることが、ケルセチンによる改善効果の実態です。
キーワード: アセチルコリン、マウス、記憶機能障害、ケルセチン、Y字迷路試験