ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

糖尿病における傷の治癒とケルセチン

出典: Biotechnic & Histochemistry 2022, 97, 461-472

https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/10520295.2022.2032829

著者: Vinay Kant, Maneesh Sharma, Babu Lal Jangir, Vinod Kumar

 

概要: 糖尿病にかかると、傷の回復が遅くなることが知られています。正常であれば、血中の糖はインスリンという物質により全身の細胞に取込まれ、エネルギーとなります。糖尿病になるとインスリンが働かず、糖はエネルギーとして使われず血中に多く残ります。血液は全身を回りますので、結果として全身に糖が残り(更には尿と一緒に糖が排出され、糖尿病と呼ばれる所以です)、過剰の糖が活性酸素種を発生させます。この活性酸素種が、傷の回復を邪魔する要因となります。

今回の研究では、ケルセチンの持つ抗酸化作用、すなわち活性酸素種を除去する働きに着目しました。ケルセチンで活性酸素種を少なく出来れば、たとえ糖尿病になっても、通常通りに傷が回復するという仮説の検証です。

まず、ラット60匹を、正常・糖尿病・糖尿病でケルセチン処置の3種類のグループに20匹ずつ分けます。ラットを糖尿病にするには、ストレプトゾトシンという膵臓毒を飲ませます。先程述べた糖をエネルギーに変えるインスリンは膵臓で分泌されますので、膵臓の機能が弱れば糖尿病を発症します。背中に2センチ四方(4 cm2の面積) の傷をつけ、ケルセチン処置群の傷にはケルセチン入りの軟膏を毎日塗ります。一方、正常群と糖尿病群には、ケルセチンが入っていない軟膏基剤を塗りました。

3週間に渡って経過を観察しました。1週間後に残った傷口は、正常群とケルセチン処置群がほぼ同じで1.8 cm2で、半分以上はふさがりました。一方、糖尿病群は2.9 cm2でした。2週間後は、正常群とケルセチン処置群の0.3 cm2に対して、糖尿病群は1.1 cm2でした。3週間後には、正常群とケルセチン処置群で完全な治癒を確認し、糖尿病群ではまだ0.5 cm2の傷が残っていました。

この結果は、糖尿病状態では傷の回復が遅れることを、ラット上でも再現しました。しかし、ケルセチンで治療すれば、糖尿病であっても正常と同じ期間で回復することを端的に物語っています。

キーワード: 糖尿病、傷、回復、ケルセチン、ラット