生薬からアミロイドβ凝集阻害物質を探索する
出典: Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters 2022, 61, 128613
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0960894X22000890
著者: Mizuho Hanaki, Kazuma Murakami, Hiroki Gunji, Kazuhiro Irie
概要: 生薬とは、動物や植物から薬効成分を精製せずに、天然のまま用いる薬の総称です。例えば甘草(かんぞう)というマメ科の薬用植物がありますが、その根と根茎を乾燥した物が「カンゾウ」と呼ばれる生薬です。数種類の生薬を決められた割合で配合したのが、漢方薬です。従って生薬は、漢方薬の原料でもあります。
アミロイドβという蛋白質はアルツハイマー病の原因物質で、脳に凝集すると脳神経を破壊して、記憶障害を始めとする認知症の諸症状が現れます。ゆえにアミロイドβの凝集を阻害する物質は、アルツハイマー病の治療薬として期待できます。
今回の研究では、46種類の生薬から、アミロイドβの凝集阻害物質が探索されました。その結果、ハス由来の生薬5種が有望な結果を示しました。同じ植物でも、その部位によって異なった生薬となるので荷梗(カコウ、葉と茎を結ぶ葉柄)・荷葉(カヨウ、葉)・藕節(グウセツ、根)・蓮鬚(レンス、おしべ)・蓮房(レンボウ、花びらが散って実になろうとしている状態)の5種です。いずれも乾燥して生薬となります。この中で、荷梗は比較的弱い活性、荷葉・藕節・蓮鬚は中程度の活性、蓮房は強い活性を、それぞれ示しました。
活性成分を調べるために、これらハス由来でありながら部位の異なる5種類の生薬を抽出し、抽出物の分析を行いました。その結果を、主成分分析という手法で統計的に処理しました。活性の強さが反映された処理法であることは、言うまでもありません。その結果、12種の活性化合物候補を特定しました。面白いことに、12種類の内11種類がケルセチンの仲間でした。12種類まで絞り込めば、一つずつ活性を調べるのは容易で、4種は不活性、3種は中程度、5種は強い活性を認めました。最強の活性を示したのは、ケルセチンでした。よって、ケルセチンは生薬から見つけられたアルツハイマー病治療薬の最有力候補です。
キーワード: 生薬、アルツハイマー病、アミロイドβ、凝集、主成分分析、ケルセチン