ケルセチンは腎臓のメサンギウム細胞を高濃度のブドウ糖から守る
出典: International Journal of Immunopathology and Pharmacology 2022, 36, 10.1177/20587384211066440
https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/20587384211066440
著者: Huan Wan, Yaping Wang, Qingyun Pan, Xia Chen, Sijun Chen, Xiaohui Li, Weiguo Yao
概要: 糖尿病にかかると、腎臓が悪くなることが多く、糖尿病性腎症と呼ばれています。正常であれば、血中の糖はインスリンという物質により全身の細胞に取込まれ、エネルギーとなります。糖尿病になるとインスリンが働かず、糖はエネルギーとして使われず血中に多く残ります。血液は全身を回りますので、結果として全身に糖が残り(更には尿と一緒に糖が排出され、糖尿病と呼ばれる所以です)、過剰の糖が腎組織を損傷すると、糖尿病性腎症を併発します。
今回の研究では、腎臓の血管周囲に存在するメサンギウム細胞に高濃度のブドウ糖を作用させて、細胞レベルで糖尿病性腎症を再現しました。糖尿病性腎症の仕組みを解明すると同時に、ケルセチンによる緩和効果も検証されました。
高濃度のブドウ糖は、メサンギウム細胞内に炎症を誘導する物質を上昇させ、活性酸素種を除去する物質を減少しました。腎組織に炎症と酸化ストレスをもたらす、まさに糖尿病性腎症をシミュレーションをしたことになります。しかしケルセチンを添加すると、メサンギウム細胞に起きた変化は全て、ブドウ糖を作用する前の正常な状態に戻りました。
核酸と呼ばれる遺伝を担う物質の中に、マイクロRNAという比較的短い種類があります。このマイクロRNA の一種でmiR-485-5pと呼ばれる物質が血液中に存在します。先程の実験で、ケルセチンの代わりにmiR-485-5pを用いても同様に、ブドウ糖によるメサンギウム細胞の炎症と酸化ストレスが正常化されました。実験の裏付けとして、健常者と糖尿病性腎症患者のそれぞれから採取した血液を分析しました。面白いことに、尿病性腎症患者のmiR-485-5pは、健常者と比べて著しく低下していることが判明しました。
以上の結果は、糖尿病性腎症にかかると防御物質であるmiR-485-5pが不足してしまいますが、ケルセチンがその代わりを果たすことを示しています。
キーワード: 糖尿病性腎症、メサンギウム細胞、ブドウ糖、ケルセチン、miR-485-5p