ケルセチンは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌の病原性を根底から低下する
出典: Microbiology Spectrum 2022, 10, e02340-21
https://journals.asm.org/doi/10.1128/spectrum.02340-21
著者: Shisong Jing, Xiangri Kong, Li Wang, Heming Wang, Jiaxuan Feng, Lin Wei, et al.
概要: 黄色ブドウ球菌は人間の鼻腔にも存在している位で、特に危険な細菌ではありません。健常者の場合、傷口に入ると化膿を起こす程度です。しかし、基礎疾患があり免疫力が低下していると、肺炎などの感染症を起こします。メチシリンという抗菌薬が効かなくなった変異菌は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)と呼ばれ、院内感染(病院内でうつる病気)の最大の要因として知られています。
今回の研究では、MRSAの病原性の要因として知られているClpPという蛋白質の働きを、ケルセチンが抑えることが発見されました。
まず、ClpPを阻害する物資を、植物に含まれる成分から探索する実験から開始しました。その結果、ケルセチンが最も強い効果を示しました。
また、ケルセチンとClpPとの親和性をコンピュータでシミュレーションしたところ、強い相互作用が予測されました。すなわち、ケルセチンはClpPと容易に結合して、しかも一旦結合したら簡単には解離しないため、ClpPの働きを抑えることが理解できます。
次に、ケルセチンがClpPを阻害ことが、MRSAに感染して肺炎を発症したマウスに有効かを検証しました。麻酔したマウスを直立させ、MRSAを鼻腔に植え付けると、そのまま肺に感染して肺炎を誘発します。マウスにとっては致死性の肺炎であり、24時間後に生存しているマウスは20%以下でした。しかし、MRSAの接種直後にケルセチンを注射したマウスでは、24時間後の生存率は70~80%で、96時間後でも50%をキープしており、生存率が大幅に延長されました。
ClpPを持たないMRSAも存在しますが、これを感染させたマウスの96時間後の生存率は100%でした。この結果の意味するところは、致死性を発現する程の病原はClpPにありました。ClpPさえなければMRSAに感染しても死に至ることはありません。従って、ClpPの働きを抑えるケルセチンは、MRSAの病原性を根底から低下した、と結論できました。
キーワード: メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、肺炎、ClpP、ケルセチン、生存率