ケルセチンは体内で代謝を受けて始めて、抗肥満作用を発揮する
出典: Journal of Food Bioactives 2022, 17, 10.31665/JFB.2022.17305
http://www.isnff-jfb.com/index.php/JFB/article/view/280
著者: Diana Carvajal-Aldaz, Karen McDonough, Jack N. Losso
概要: ケルセチンに限らず、化学物質が体内に入ると酵素が働いて、異なった物質に変化します。この現象は代謝と呼ばれ、例えば食事で摂った蛋白質が消化されてアミノ酸になるのも、広い意味で代謝に含まれます。ケルセチンの代謝物の一つに、イソラムネチンという類似物質があります。今回の研究では、特定の細胞内にて、ケルセチンとイソラムネチンの挙動が異なることが発見されました。
肥満は脂肪組織が増えることですが、脂肪組織を構成する脂肪細胞が増えた結果です。その脂肪細胞とは、前脂肪細胞と呼ばれる別の細胞が脂肪細胞に変化することで、細胞から細胞への変化は「分化」という特別の言い方をします。
まず、3T3-L1という前脂肪細胞にケルセチンとイソラムネチンのそれぞれを加えて、脂肪細胞に分化する際に必要な転写因子という物質の増減を調べました。イソラムネチンは転写因子の発現を抑制しました。ケルセチンは反対に、何も加えない状態より若干ですが、転写因子の発現を増やしました。すなわち、イソラムネチンは3T3-L1の脂肪細胞への分化を阻害しますが、ケルセチンにはその様な働きがないことを意味します。
次に、3T3-L1の状態を観察しました。イソラムネチンを加えた3T3-L1の内部では、油滴の量が減少しました。しかも、イソラムネチンの濃度が高くなるにつれ、油滴量も減少する濃度依存性が見られました。一方、ケルセチンの添加では、少し変わった現象が見られました。濃度が25~100 nMの領域では、無添加時と比べて油滴が増えます。それ以上の濃度では、濃度の上昇とともに緩やかに油滴が減少しますが、10 μMの高濃度になってようやく、無添加時と同等の油滴量になりました。
従って、イソラムネチンは肥満の根本原因である、前脂肪細胞の分化や油滴の蓄積を阻害しますが、ケルセチンには阻害作用がありません。ケルセチンは体内でイソラムネチンに代謝されますので、代謝こそが、抗肥満作用を獲得するスイッチだと考えられます。
キーワード: ケルセチン、代謝、イソラムネチン、前脂肪細胞、3T3-L1、分化、肥満