ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ケルセチンは、抗癌剤シクロホスファミドによる免疫毒性を緩和する

出典: Immunobiology 2022, 227, 152218

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0171298522000444

著者: Azubuike Peter Ebokaiwe, Doris Olachi Obasi, Winner O. Kalu

 

概要: シクロホスファミドという抗癌剤があります。乳癌・肺癌・多発性骨髄腫・悪性リンパ腫の治療に用いられます。発売開始が1962年ゆえ、今年で60年目を迎えるロングセラーですが、残念ながら免疫毒性の副作用があります。今回の研究では、ケルセチンがシクロホスファミドによる免疫毒性を緩和することが、ラットで検証されました。

左の上腹部に腎臓と胃に挟まれる場所に脾臓という臓器があります。脾臓ではリンパ球や抗体の一部が作られ、これらは免疫機能に中心的な役割を果たします。シクロホスファミドによる免疫毒性とは、脾臓中で必須アミノ酸の一つであるトリプトファンの分解を活性化する点にあります。トリプトファンはリンパ球や抗体を作る上で大切な原料ですので、分解で失われては免疫機能に支障をきたすことになります。

実際、シクロホスファミドを投与したラットの血液では、トリプトファンの分解物のキヌレニンという物質が上昇しました。本来は脾臓で使われる筈のトリプトファンがキヌレニンに分解されて血液中に流出した結果です。シクロホスファミドを投与する前の血中キヌレニン濃度は6.5 nMでしたが、投与後は11 nMになりました。しかし、シクロホスファミドと同時にケルセチンを投与するとトリプトファンの分解が抑制され、キヌレニン濃度は7~8 nMを保ちました。

また、脾臓で作られるリンパ球の一種である、CD4-T細胞の挙動も調べました。正常なラットの血液1 μL中には、約300個のCD4-T細胞がありました。これがシクロホスファミドの投与で120個に減少し、トリプトファンの欠乏の影響を端的に示しています。ケルセチンの同時投与は280個に戻して、ほぼ正常値に近づけました。

以上、シクロホスファミドの欠点である免疫毒性には、ケルセチンが解決策となりました。

キーワード: シクロホスファミド、免疫毒性、脾臓、トリプトファン、キヌレニン、CD4-T細胞、ケルセチン