ケルセチンはフェロトーシスを抑制して、非アルコール性脂肪肝疾患を改善する
出典: Frontiers in Pharmacology 2022, 13, 876550
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fphar.2022.876550/full
著者: Jin-Jin Jiang, Guo-Fu Zhang, Jia-Yi Zheng, Ji-Hu Sun, Shi-Bin Ding
概要: 肝臓に脂肪が蓄積した状態を「脂肪肝」と呼びますが、お酒を飲み過ぎた結果と、お酒を飲まなくともなる場合の二通りあります。後者は非アルコール性脂肪肝疾患(以下、NAFLD)と言われ、肥満・高血圧・糖尿病がしばしば伴います。NAFLDを放置すると、お酒の飲みすぎによる脂肪肝と同様に、肝炎→肝硬変→肝癌と重篤な方向へエスカレートするので、NAFLDの段階で治療して、それより先に病状を進行させない対策が必要です。今回の研究では、ケルセチンがNAFLDの症状を改善することとその仕組みが、マウスを用いる実験で明らかになりました。
マウスを無作為に4群に分け、次の内容の餌を12週間食べさせました。1) 通常の餌、2) 高脂肪の餌のみ、3) 高脂肪の餌にケルセチン50 mg配合、4) 高脂肪の餌にケルセチン100 mg配合。1)と比べて2) は、肝臓中の脂肪の蓄積が大幅に増えました。しかも、脂肪が過剰に酸化された過酸化脂質の増大も顕著でした。脂肪は三大栄養素の一つであるように体には必要ですが、過酸化脂質は組織を傷つける、非常に危険な物質です。脂肪の取り過ぎが健康に悪いには、栄養に使われて余った脂肪分が、過酸化脂質に変化するためです。しかし、3)と4)では肝臓中の脂肪も過酸化脂質も、蓄積が抑制されました。4)の方が少ないので、ケルセチンの用量依存的な効果が示されました。
マウスの肝臓を詳しく調べた結果、2)ではGPX4という過酸化脂質を無毒化する酵素が、1)の約半分になっていました。しかし、3)ではGPX4が1)の7割程度まで回復し、4)に至っては1)の1.4倍にまで増えました。GPX4が不足すると過酸化脂質が増え続けて、最後にはフェロトーシスという細胞死を誘導します。フェロトーシスは、組織を形成する肝細胞の死ですから、肝臓の損傷につながります。従って、GPX4はフェロトーシス抑制物質としての機能も持ち合わせています。
まとめると、ケルセチンはGPX4を増やして、フェロトーシスを抑制しました。その結果、脂肪の取り過ぎによるNAFLDの症状を改善するケルセチンの働きも、同時に解明されました。
キーワード: ケルセチン、非アルコール性脂肪肝疾患、脂肪、過酸化脂質、GPX4、フェロトーシス