ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ルチンは、前十字靭帯切離したラットの変形性関節症を改善する

出典: DNA and Cell Biology 2022, 41, 617-630

https://www.liebertpub.com/doi/abs/10.1089/dna.2021.1182?journalCode=dna

著者: Cong Sui, Yichao Wu, Ran Zhang, Tiantian Zhang, Yang Zhang, Jiaojiao Xi, Yanyu Ding, Jiyue Wen, Yong Hu

 

概要: 変形性関節症とは、関節の中の軟骨が加齢と伴にすり減り痛みが生じる病気で、世界に2億5千万人の患者がいます。残念ながら、現在の医学では変形性関節症を完全に治癒する手段がなく、薬で一時的に痛みを和らげる対処法しかありません。今回の研究ではラットの動物実験にて、ケルセチンに2個の糖が結合したルチンが、変形性関節症に対する効果を示しました。

前十字靭帯とは、大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)をつなぐ靭帯です。ラットの前十字靭帯を切離すると、関節内には軟骨が不足して、変形性関節症の症状のモデルとなります。前十字靭帯切離したラットの膝関節に、0.9%ルチン-生理食塩水を注射した場合と、生理食塩水のみの注射とを比較しました。なお、注射は週3回の頻度で6週間継続しました。生理食塩水のみでは、関節が赤く腫れ、歩行が困難になり、典型的な変形性関節症の症状を呈しました。一方、ルチンによる処置は、正常近くまで改善されました。また、変形性関節症に特有な現象として、Rho関連コイルドコイル蛋白質キナーゼ(ROCK)という物質が関節内に過剰に発現することが知られていますが、今回の実験でも同じことが再現されました。すなわち、生理食塩水のみ注射したマウスではROCKが上昇しましたが、ルチンはROCKを大幅に低減しました。

ROCKの制御こそが、変形性関節症の完全治療の鍵と考え、軟骨細胞を用いる実験を行いました。軟骨細胞にルチンを添加すると、シスタチオニン-β-合成酵素(CBS)の発現が促進することを、まず確認しました。次に、軟骨細胞を毒素で刺激して、炎症を誘発しました。ルチンを添加すると炎症が緩和し、かつROCK を低減しました。面白いことに、CBSを過剰発現した軟骨細胞では、ルチンを添加しなくとも同様の結果が見られました。すなわち、ルチンがCBSを介してROCKを低下し、その結果、変形性関節症を改善するという仕組みが解明されました。

よって、ルチンには、変形性関節症の根本的な治療手段となる可能性を秘めています。

キーワード: 変形性関節症、前十字靭帯切離、ルチン、ROCK、CBS、軟骨細胞