韃靼そばにルチンが多く含まれるのは何故か?
出典: The Plant Journal 2022, 110, 323-334
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/tpj.15800
著者: Mengqi Ding, Yuqi He, Kaixuan Zhang, Jinbo Li, Yaliang Shi, Mengyu Zhao, Yu Meng, Milen I. Georgiev, Meiliang Zhou
概要: 韃靼(だったん)そばとは、通常のそばと同じタデ科ソバ属の植物ですが、種が異なります。通常のそばが同一株内では受粉できない他家受粉であるのに対し、韃靼そばは同一株内はもちろん同じ花のおしべとめしべでも受粉できる自家受粉です。通常のそばと比べて、韃靼そばは苦いことが知られ、苦そばという別名もあります。そして、両者の大きな違いはケルセチンに2個の糖が結合したルチンの含量で、韃靼そばのルチン含量は通常のそばの100倍にもなります。今回の研究では、韃靼そばにルチンが豊富に含まれるのは何故か、分子レベルで解明しました。
韃靼そばには、FtF3Hという遺伝子が存在します。遺伝子には、その先頭部分にプロモーター領域と呼ばれる部位があります。このプロモーター部分に特定の蛋白質が結合すると、遺伝子の複製が開始されます。いわば、遺伝子の働きが開始するスイッチのような機能ですが、FtF3H にはGCCボックスというプロモーター領域が存在します。遺伝子操作によりこのGCCボックスを失わせた韃靼そばでは、ルチンの蓄積が大幅に減少しました。
従って、FtF3Hがルチンの産出に深く関与する遺伝子であることが分かり、FtF3Hのオンオフに係わる物質、すなわちGCCボックスと相互作用する物質を韃靼そばの中から探索しました。その結果、細胞の核内物質であるFtERF-EAR3がGCCボックスに結合すると、FtF3Hの発現が低下し、ひいてはルチンの産出を止めることが分かりました。FtERF-EAR3こそが、スイッチをオフにする物質でした。
次に、韃靼そば特有のルチン産出の核心に迫るべく、FtERF-EAR3に影響を及ぼす物質を探索し、植物ホルモンのジャスモン酸に行きつきました。ジャスモン酸は、特定の蛋白質分解経路を活性化して、FtERF-EAR3を分解し、韃靼そばの産出オフ物質を取り除きました。
韃靼そばにルチンが多いのはFtF3Hの発現に加え、引き金としてのジャスモン酸の働きも重要です。
キーワード: 韃靼そば、ルチン、FtF3H、GCCボックス、FtERF-EAR3、ジャスモン酸