ケルセチンで農作物を害虫から守る
出典: Molecules 2022, 27, 3325
https://www.mdpi.com/1420-3049/27/10/3325
著者: Verónica Herrera-Mayorga, José Alfredo Guerrero-Sánchez, Domingo Méndez-Álvarez, Francisco A. Paredes-Sánchez, Luis Víctor Rodríguez-Duran, Nohemí Niño-García, et al
概要: ツマジロクサヨトウという、蛾の仲間に属する昆虫がいます。元来は中南米に生息する虫ですが、以前アフリカへ進入した際には、トウモロコシを中心に農作物に大きな被害をもたらした害虫です。その後、インド・中国・台湾でも確認され、2019年には日本にも上陸しました。日本ではまだ馴染がうすい存在ですが、既にスイートコーンで被害が出はじめており、早急な対策が必要です。
キク科の植物は、観賞用としてだけでなく、広く薬効も知られています。中でも糸(いと)葉(ば)泡(あわ)立(だち)草(そう)は、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)という酵素を阻害します。このAChEがツマジロクサヨトウの生存に不可欠な点に着目して、糸葉泡立草の殺虫作用を調べたのが、本研究です。
糸葉泡立草の葉を乾燥して、細かく刻んだ後、エチルアルコールで抽出しました。得られた抽出物の殺虫作用を、ツマジロクサヨトウの幼虫を用いて評価しました。予想は的中して、0.496 mg/mLの濃度で幼虫の半分が生存不可能になりました。
次に抽出物を分析して、主成分がケルセチンとクロロゲン酸であることが分かりました。クロロゲン酸はコーヒーに多く含まれる物質で、肥満を抑制する効果が有名です。両者の殺虫作用を調べたところ、ケルセチンは0.157 mg/mLの濃度で幼虫の半分が死に至りました。すなわち、糸葉泡立草抽出物の約1/3の濃度で、同等の効果を示したことになります。一方のクロロゲン酸には、殺虫作用は全くありませんでした。しかし、ケルセチンとクロロゲン酸を混ぜた実験では、ケルセチンの殺虫作用は維持され、クロロゲン酸が妨害することはありませんでした。よって、糸葉泡立草抽出物が示した殺虫作用にはケルセチンが関与することが、明確になりました。
最後に、ケルセチンとツマジロクサヨトウが持つAChEとの間の強力な相互作用がコンピュータで予測され、殺虫作用の本質はAChEの阻害であることが示唆されました。
キーワード: ツマジロクサヨトウ、幼虫、殺虫作用、糸葉泡立草、ケルセチン、アセチルコリンエステラーゼ