ルチンは密接に関連した2種類の作用で、マウスの大腸炎を改善する
出典: Food Chemistry 2022, 393, 133395
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0308814622013577
著者: Yan Liu, Weisu Huang, Shengyang Ji, Jing Wang, Jingyang Luo, Baiyi Lu
概要: ケルセチンの類似物質の一つに、ルチンがあります。ケルセチンに2個の糖が結合した形です。今回の研究では、ルチンの大腸炎を改善する仕組みが、マウスを用いる動物実験で解明されました。
マウスにデキストラン硫酸ナトリウムという化学物質を与えると、大腸に炎症が起こり、下痢と血便が見られます。しかし、同時にルチンを飲んだマウスでは、同じ化学物質を与えたのも拘わらず、炎症を始めとする大腸炎の症状が抑制されました。腸管の表面には密着結合蛋白質が存在し、文字どおり密着に結合した構造を維持して、病原体の侵入を防ぐ機能が備わっています。大腸炎のマウスでは、ZO-1という密着結合蛋白質が極端に減少して、外敵から防御する腸の機能が弱まり、症状の悪化を促進しました。ところがルチンは、ZO-1の数を正常レベルに保ちました。
NF-κBという炎症の大元となる物質があります。NF-κBがDNAに結合すると、炎症を誘導する蛋白質の産出が開始されるので、いわば炎症のスイッチです。また、IκBというNF-κBの働きを抑える、抗炎症性の物質も同時に存在して、IκBとNF-κBとのバランスを保ちながら恒常性が維持されます。大腸炎のマウスでは、IκBが分解され、その結果NF-κBが過剰に活性化して、炎症のスイッチが押したままの状態でした。一方、ルチンはIκBの分解を抑制して、NF-κBの働きに歯止めを掛けました。
次に、腸内細菌叢(生息する細菌類の分布)を調べました。Eubacterium fissicatenaという病原性の細菌は、正常ではゼロに近い筈が、大腸炎では大幅に増えていました。ルチンには、この病原菌の増加を抑える働きもあり、ゼロ近くを維持できました。実験に用いたマウス全ての腸内細菌叢と炎症物質の関係を、統計的に調べました。その結果、Eubacterium fissicatenaが多いと、NF-κBのような炎症物質の発現も増えるという、正の相関関係を見出しました。一方、IκBのような抗炎症物質はは逆に減少する傾向がみられ、負の相関関係がありました。
ルチンの作用には、炎症の抑制と腸内細菌叢の改善の2通りがあり、互いが密接に関連しています。
キーワード: ルチン、大腸炎、炎症、NF-κB、IκB、腸内細菌叢、マウス