ケルセチンはシスプラチンの深刻な副作用を軽減する
出典: The American Journal of Chinese Medicine 2022, 50, 1281-1298
https://www.worldscientific.com/doi/epdf/10.1142/S0192415X22500537
著者: Shih-Hao Wang, Kun-Ling Tsai, Wan-Ching Chou, Hui-Ching Cheng, Yu-Ting Huang, Hsiu-Chung Ou, Yun-Ching Chang
概要: シスプラチンという、汎用されている抗癌剤があります。胃癌・食道癌・肺癌・子宮頸癌・卵巣癌・前立腺癌・骨肉腫と幅広い効能効果があり、40年近い販売実績にあるロングセラーです。しかし、心筋毒性に代表される深刻な副作用もあり、慎重な使用が絶えず求められます。
今回の研究では、心筋細胞H9c2にシスプラチンを作用させて、毒性のシミュレーションを行いました。同時に、ケルセチンによる毒性の軽減効果も見出され、その仕組みも解明されました。
H9c2細胞に40 μMの濃度でシスプラチンを添加すると、その毒性ゆえに生存率は半分以下となりました。しかし、5~20 μMの濃度のケルセチンを作用すると、生存率は濃度の上昇に比例して回復し、20 μMでは100%の生存率に戻りました。言い換えると、20 μMのケルセチンが存在すれば、半分の死滅を招く40 μMのシスプラチンを添加しても、H9c2細胞は全く死なないことを意味します。
次に、H9c2細胞に起きた変化を詳しく調べました。Nrf2という転写因子(DNAに結合して遺伝子の発現を調節する蛋白質)は、先程の生存率とよく似た挙動を示しました。すなわち、40 μMのシスプラチンでH9c2細胞中のNrf2は約半分になりました。しかし、ケルセチンは濃度依存的にNrf2の量を回復して、20 μMでは100%になるという、まさに生存率と同じ形のグラフが得られました。Nrf2がDNAに結合して産出される物質の一つに、HO-1という蛋白質があります。Nrf2が調節するので、ある意味当然ですが、今回の実験でも、HO-1はNrf2の挙動と連動しました。今回のNrf2がHO-1を増やすように働いた動きは、活性酸素種による細胞や組織の損傷を軽減することが、よく知られています。
今回のケルセチンによる毒性の軽減も、同じ働きであることを確かめるため、次の実験を行いました。遺伝子操作により調製した、Nrf2とHO-1を作らせないH9c2細胞では、ケルセチンの効果がありませんでした。ゆえに、Nrf2とHO-1を増大して、シスプラチンがもたらす活性酸素種が損傷するH9c2細胞を保護した、ケルセチンの働きが明らかになりました。
キーワード: シスプラチン、心筋細胞、H9c2細胞、ケルセチン、Nrf2、HO-1