ケルセチンは糖尿病に伴うアキレス腱の酸化的な損傷を軽減する
出典: BMC Musculoskeletal Disorders 2022, 23, 563
https://bmcmusculoskeletdisord.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12891-022-05513-4
著者: Tomoya Yoshikawa, Yutaka Mifune, Atsuyuki Inui, Hanako Nishimoto, Kohei Yamaura, Shintaro Mukohara, Issei Shinohara, Ryosuke Kuroda
概要: 食事で摂取したでんぷんが消化されて糖にり、腸で吸収され、血液で全身に運ばれて栄養源になります。糖尿病になると、糖が栄養源として使われず血中に多く残ります。その結果、全身に糖が残ります(更には尿と一緒に糖が排出され、糖尿病と呼ばれる所以です)。過剰の糖は、活性酸素種という老化や病気の原因になる物質を盛んに作るため、全身に悪さをする事態となります。
今回の研究では、アキレス腱の細胞に高濃度の糖を作用させて、糖尿病のシミュレーションを行いました。同時に、ケルセチンによる活性酸素種の低減と、損傷の軽減も見出されました。
アキレス腱細胞に6 mMと33 mMの濃度で糖を作用させました。前者は通常の状態と同じ濃度の再現で、後者は糖尿病にかかった際の異常に上昇した濃度です。高糖濃度における細胞内の活性酸素種は、通常濃度の7倍にまで上昇しました。しかし、20 μMの濃度のケルセチンを添加すると、たとえ33 mMの糖でも、活性酸素種の上昇が抑えられました。
細胞実験の有望な結果を受けて、ラットを用いる動物実験を行いました。ストレプトゾトシンという膵臓毒をラットに飲ませて、膵臓でインスリンが分泌しないI型糖尿病の病態を作ります。その時、ラットのアキレス腱は構成する線維が無秩序な状態になり、損傷が進みました。糖尿病のラットに、50 mg/kgのケルセチンを一日おきに飲ませ4週間継続すると、アキレス腱の線維は規則正しい元の状態に戻りました。アキレス腱の組織中における、NADPHオキシダーゼという活性酸素種を作らせる酵素の変動を調べました。Nrf2が調節するので、ある意味当然ですが、今回の実験でも、HO-1はNrf2の挙動と連動しました。ラットが糖尿病になると、このNADPHオキシダーゼも上昇しました。ケルセチンによる治療では、NADPHオキシダーゼが大幅に減少して、活性酸素種の産出抑制が示唆されました。この結果は、細胞実験と良好に一致しました。同時に、アキレス腱の線維の正常化は、ケルセチンによる活性酸素種の低減に基づくことが明らかになりました。
キーワード: 糖尿病、アキレス腱、活性酸素種、ケルセチン、NADPHオキシダーゼ