稀少癌である副腎皮質癌の治療に、ケルセチンが使える可能性
出典: Pharmaceuticals 2022, 15, 754
https://www.mdpi.com/1424-8247/15/6/754/htm
著者: Alan A. Veiga, Ana Carolina Irioda, Bassam F. Mogharbel, Sandro J. R. Bonatto, Lauro M. Souza
概要: 副腎皮質癌とは、100万人に0.72人の割合で発症する、典型的な稀少癌です。にもかかわらず、進行性で、手術後の再発率の高さと生存率の低さが知られています。現在日本で承認されている副腎皮質癌の治療薬は、ミトタン1種類のみです。ミトタンは、殺虫剤や農薬に使われているDDTと非常によく似た構造で、その毒性が懸念されています。
今回の研究では、ミトタンに替る副腎皮質癌の治療薬の候補として、ケルセチンが有望であるデータが発表されました。
H295RとSW-13の2種類の副腎皮質癌細胞を用意しました。それぞれの細胞を培養しながら、ケルセチンもしくはミトタンの濃度を変えて添加し、細胞の挙動を観察しました。H295Rの場合、10 μMの濃度のケルセチンを添加すると、その生存率は50%になりました。一方、ミトタンは10 μMの濃度における生存率は90%程度で、30 μMで生存率70%とようやく効果が示されました。同じ濃度で、ケルセチンの方がより多くのH295Rを死滅させており、より優れた抗癌活性を示しています。また、SW-13でも同様に、ケルセチンの優位性が観察されました。
次に、ケルセチンがH295RとSW-13に対してどのように作用して抗癌活性を示すのか、細胞周期の観点から調べました。細胞分裂の際に一連の段階を経ますが、その一つひとつを細胞周期と呼びます。30 μMの濃度ケルセチンをH295Rに作用させると、G2期というDNAの複製を終えた段階で分裂に入る前段階を長くしました。このG2期は細胞周期の中では最も短期間ですが、この段階を長くするしてケルセチンはH295Rの増殖を抑制しました。さらに、SW-13に対してケルセチンは、細胞分裂が終了してDNAの複製に入るまでのG1期を停止しました。従って、H295Rとは反対側にある過程を遅らせて、抗癌作用を発揮したことになります。
ケルセチンはタマネギやリンゴに多く含まれ、安全である点も、ミトタンに勝ると言えましょう。
キーワード: 副腎皮質癌、ミトタン、ケルセチン、H295R、SW-13、細胞周期