ケルセチンは難病を治療する救世主となるか?
出典: Drug Development Research 2022, 83, 1351-1361
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/ddr.21964
著者: Lihua Chang, Aibin Kong, Yun Guo, Jing Zhang, Yue Sun, Penglu Chen, Xiaofei Wang
概要: シェーグレン症候群とは、自己の組織を異物と間違って認識して免疫系が攻撃する、自己免疫疾患の一種です。その結果、涙腺や唾液腺のような液体を分泌する組織が炎症を起こし、眼や口が乾燥症状を呈します。発症原因は不明で、適切な治療法も確立しておらず、難病に指定されています。
分からないことが多いシェーグレン症候群ですが、数少ない分かっていることは、唾液腺にて2種類の蛋白質が異常に活性化されて、組織を構成する細胞が死滅する現象です。この蛋白質とは、JAK2とSTAT3と呼ばれ、これらの活性化をケルセチンが抑制することが既に知られています。そこで、今回の研究ではケルセチンに着目して、その効果を調べました。
遺伝子操作によって、マウスをシェーグレン症候群のような状態にしました。その結果、唾液の分泌を表す、唾液腺における唾液の流速が低下し、8週間後には60%になりました。一方、ケルセチンを飲んだマウスでは、遺伝子操作にもかかわらず唾液の流速低下が抑えられ、正常なマウスと同じレベルを保ちました。また、ケルセチンを飲んだマウスの唾液腺は炎症が改善され、特にリンパ球の侵入を抑えました。
次に、唾液腺組織内のJAK2とSTAT3の状況を検証しました。両方の蛋白質とも、リン酸化された形が活性体ですので、リン酸化されていない蛋白質とリン酸化された蛋白質の割合を調べます。正常なマウスでのリン酸化されたJAK2の量を1とした時、シェーグレン症候群のマウスでは6.3にまで上昇しました。しかし、ケルセチンを飲むと2.5まで下がりました。同様に、正常マウスにおけるリン酸化されたSTAT3を1とすると、シェーグレン症候群で6.0、ケルセチンを飲んで1.8というデータが得られました。すなわちケルセチンによって、JAK2とSTAT3の両方とも活性化が防げました。
今回の結果は、シェーグレン症候群の治療薬に求められる最低限の条件だけは、クリアしています。ケルセチンが難病を治す救世主となれるか、今後の展開が楽しみです。
キーワード: シェーグレン症候群、ケルセチン、マウス、唾液腺、炎症、JAK2、STAT3