ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

乳酸菌と共培養したケルセチンは、安全性と抗癌作用が強化される

出典: Pharmaceuticals 2022, 15, 798

https://www.mdpi.com/1424-8247/15/7/798/htm

著者: Ko-Chao Lee, Kuen-Lin Wu, Chia-Kung Yen, Shun-Fu Chang, Cheng-Nan Chen, Ying-Chen Lu

 

概要: これまでの連載で見てきたように、ケルセチンやルチンを始めとするフラボノイドには、様々な薬理作用があります。一言で言ってしまえば、正常な組織や細胞は保護し、癌組織や細胞には攻撃して死滅させます。

今回の研究では、ケルセチンを乳酸菌と共培養すると、元来持っていた性質が強化されることが見出されました。すなわち、培養したケルセチンは、正常細胞に対する安全性と癌細胞に対する毒性の両方が増強されました。

NCM460という腸管粘膜の細胞、すなわち正常細胞を用いて、ケルセチンの共培養の有無を比較しました。いくら正常細胞には無毒のケルセチンとはいえ、非常に濃い濃度で作用すると毒性が生じます。いくら健康に良いケルセチンでも、過剰な摂取は有害であることの細胞版になります。実際、培養していないケルセチンを300 μMの濃度でNCM460細胞に添加すると、24時間後に半分にまで死滅しました。600 μMの濃度での24時間後の生存率は、30%でした。ところが、培養したケルセチンでは300 μMでも600 μMでもNCM460の生存率は低下せず、安全性が更に向上しました。

次に、HCT-116という結腸直腸癌細胞を用いて、ケルセチンの性質の変化を調べました。この癌細胞に5-FUという抗癌剤を5 μMの濃度で添加すると、50%に死滅しました。抗癌剤の働きなのである意味当然ですが、レジスチンという蛋白質の存在下では80%が生存して、抗癌剤の働きが弱まりました。ここに培養していないケルセチンを300 μMの濃度で添加しました。正常細胞に毒性を示した濃度ですが、HCT-116に対しては効果がなく、80%の生存率が保たれました。一方、培養したケルセチン300 μMの添加では、レジスチンが存在しているにも拘わらず、5-FUの働きが復活しました。

この様に、乳酸菌との共培養によってケルセチンの性質は、正常細胞にはより安全に、癌細胞の死滅はより強力に変化しました。その理由はまだ不明ですが、今後の展開が楽しみです。

キーワード: ケルセチン、乳酸菌、共培養、正常細胞、NCM460、癌細胞、HCT-116