ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

最近分かったケルセチンが乳癌細胞を死滅させる新たな仕組み

出典: Computational Intelligence and Neuroscience 2022, 2022, 5299218

https://www.hindawi.com/journals/cin/2022/5299218/

著者: Songbo An, Mingyue Hu

 

概要: この連載で再三述べているように、ケルセチンには癌細胞を死滅させる効果があります。しかしながら、どのような仕組みで死滅させるかの詳細は不明でした。今回の研究では、乳癌細胞におけるケルセチンの挙動と、その結果生じる癌細胞の死滅との関連が解明されました。

MCF-7というヒト由来の乳癌細胞に、0.1, 1, 10 μMそれぞれの濃度でケルセチンを添加して、24時間後の生存率を比較しました。0.1 μMでは100%生存していましたが、1 μMでは85%、10 μMでは40%と、濃度依存的に生存率の低下が見られました。面白いことに、MCF-7内の鉄の量が、生存率と深く関連していました。すなわち、100%生存したケルセチン0.1 μMの時の鉄量を1とすると、1 μMでは1.5、10 μMでは2.5と、大幅な上昇が見られました。また、鉄の恒常性を維持するフェリチンという蛋白質が分解され、その結果、MCF-7細胞内に鉄が上昇したことも分かりました。

次に、ケルセチンを作用する前と後における、MCF-7細胞の変化を調べました。全ての細胞は(正常細胞でも癌細胞でも)、細胞分裂を担う核という部分と、それ以外の細胞質という部分に分かれます。ケルセチンを作用する前には、TFEBという蛋白質が細胞質のみに存在し、核にはありませんでした。ところが、ケルセチンを添加すると、このTFEBは核に移動し始め、12時間後には移行が完了しました。これと同時に、フェリチンの分解を担うLAMP-1という蛋白質が盛んに作られるようになり、12時間後にはピークに達しました。

これら2つの蛋白質と、ケルセチンによるMCF-7細胞の死滅作用との関連を調べる実験を次に行いました。周囲に結合してTFEBを働かなくする核酸をMCF-7細胞に添加すると、たとえケルセチンが存在しても、鉄の上昇がなく、生存率100%をキープしました。また、LAMP-1の阻害物質を添加しても、同様にケルセチンによる死滅効果が打ち消されました。

これで、因果関係が全て明確になりました。ケルセチンがTFEBを細胞質から核へ移動させる→LAMP-1が盛んに作られフェリチンを分解する→細胞内に鉄が上昇→鉄の多さでMCF-7細胞が死滅する。

キーワード: 乳癌細胞、MCF-7細胞、ケルセチン、鉄、フェリチン、TFEB、LAMP-1