ルチンはステロイドが誘発した骨粗鬆症を改善する
出典: The Saudi Dental Journal 2022, 34, 464-472
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1013905222000888
著者: Nuha Abdul-Fattah Baraka, Naglaa Fathallah Ahmed, Safaa Ismail Hussein
概要: ケルセチンの類似物質の一つに、ルチンがあります。ケルセチンに2個の糖が結合した形です。今回の研究では、ルチンが骨粗鬆症に効く可能性が、ラットを用いる動物実験で解明されました。
ラットにステロイドを注射して、骨粗鬆症を誘発しました。ステロイドが骨組織に移行すると、骨粗鬆症を発症しやすいことを利用します。余談ですが、ステロイドの飲み薬や注射薬は、骨粗鬆症のリスクが常にあり、服用量に細心の注意を要します。反対に塗り薬や吸入薬では、ステロイドが骨に入る可能性が低いため、骨粗鬆症のリスクは小さくなります。
ステロイドの注射を4週間継続したラットは、147 g/cm2あった骨密度が110 g/cm2にまで減少して、典型的な骨粗鬆症を呈しました。しかし、次の4週間にルチンを飲ませると、8週間後の骨密度は160 g/cm2になりました。回復を通り越して、ステロイドの注射前よりも骨密度が増加しました。
次に、それぞれの下顎歯槽骨を検証しました。骨組織では、新しい骨が作られ、古い骨が壊されることが、常に繰り返されています。この中で、骨を作る働きを担う細胞を骨芽細胞と呼び、骨を壊す働きを担う細胞を破骨細胞と呼びます。正常なラットでは、骨芽細胞と破骨細胞とが一定のバランスを保持していた筈ですが、骨粗鬆症で異常が見られました。すなわち、本来丸みを帯びている骨芽細胞ですが、平べったい形が増えました。また、破骨細胞の絶対数も増えました。この結果は、骨芽細胞の形状に異常が増えて新しい骨の形成が阻害され、破骨細胞が増大して骨を壊す働きを促進して、骨量が減ることを意味します。ルチンを与えたラットでは、丸みを帯びた骨芽細胞が増え、破骨細胞の数も元に戻りました。最後に、コラーゲンという蛋白質の産出状況を調べました。コラーゲンは骨の半分を占め、骨の強度を保つ成分です。骨粗鬆症のラットでは、新規に作られるコラーゲンが極度に減少して骨強度が低下(骨折しやすい状態)しましたが、ルチンはこれも正常化しました。
以上の結果は、2通りの可能性を示唆しました。一つはルチンで骨粗鬆症を治療できる可能性、もう一つはステロイド治療時における骨粗鬆症の発症リスクを下げる可能性です。
キーワード: 骨粗鬆症、ルチン、ラット、ステロイド、骨密度、骨芽細胞、破骨細胞、コラーゲン