ケルセチンとピペラシリンとの組合せで耐性菌に対抗する
出典: Frontiers in Pharmacology 2022, 11, 926104
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fphar.2022.926104/full
著者: Yuejuan Zhang, Cheng Chen, Bin Cheng, Lei Gao, Chuan Qin, Lixia Zhang, Xu Zhang, Jun Wang, Yi Wan
概要: ペニシリンやセファロスポリンは、β-ラクタム系抗生物質という部類に属します。β-ラクタム環という共通する基本骨格に由来する名称です。この共通する構造が壊れてしまうと、抗菌力が失われ、抗生物質として機能しなくなります。
ピペラシリンというβ-ラクタム系抗生物質は、幅広い菌類に効力を示し、感染症全般の治療に用いられます。しかし、OXA-48というβ-ラクタム環を壊す酵素を産出する菌に対しては無効です。該当する菌はピペラシリン耐性菌と呼ばれ、ピペラシリンが存在してもOXA-48で壊すので、死ななくなります。従って、OXA-48の阻害が、ピペラシリン耐性菌に効く抗生物質を開発する鍵となります。今回の研究では、ケルセチンがOXA-48を強力に阻害することが発見されました。
まず、OXA-48を阻害する物質を広く天然物から探索しました。その結果、ケルセチンと、その類似物質であるフィセチンとルテオリンの計3物質に阻害作用がありました。3種とも同程度の阻害作用を示しましたが、入手のしやすさからケルセチンに絞って実験を進め、詳しい性質を調べました。
大腸菌の遺伝子を操作して、OXA-48を産出する耐性菌を人工的に作りました。1 mLの培養中に、この耐性菌を約100万個のコロニー(集団)を含む状態で、培養を開始しました。菌の生育に必要な栄養源を含む培養条件のため、菌は右肩上がりに増殖を続けて、24時間後には1万倍になり1 mLに約100億個のコロニーが検出されました。この培養条件でピペラシリンを64 μg/mLの濃度で加えても同様に菌は増殖して、耐性菌としての挙動が端的に示されました。ところが、ピペラシリンとケルセチンを組合せとして、両者ともに64 μg/mLの濃度で加えると、反対に菌は1万倍に減少しました。すなわち、24時間後の1 mL当たりのコロニー数は100個以下となりました。
以上の結果は、ケルセチンがOXA-48を阻害したため、たとえ耐性菌が相手でもピペラシリンの骨格が壊されないことを意味します。ピペラシリン単独では効かない耐性菌でも、ケルセチンと組合せて強力な抗菌作用が発揮されました。
キーワード: β-ラクタム系抗生物質、ピペラシリン、OXA-48、耐性菌、ケルセチン