ケルセチンは、間葉系幹細胞の移植による凍傷の治療効果を高める
出典: Regenerative Therapy 2022, 21, 225-238
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2352320422000736#!
著者: Fatima Irfan, Fatima Jameel, Irfan Khan, Rummana Aslam, Shaheen Faizi, Asmat Salim
概要: 通常の細胞は細胞分裂で自己増殖のみ行われますが、幹細胞とは、他の細胞に変化できる性質を有しています。間葉系幹細胞(以下、MSC)は、骨・心筋・腱・脂肪・神経・皮膚の各細胞に変化できます。重度の火傷や凍傷で、皮膚組織の自然な再生が困難な場合には、しばしば皮膚移植手術が行われます。大掛かりな手術を簡便化すべく、皮膚組織の代わりにMSCの移植が盛んに研究されています。MSCによる代替は、まだ動物実験の段階でヒトに応用するまでには時間を要します。一連の研究の一環として、今回はケルセチンが、移植したMSCの働きを活性化しました。
マウスの皮膚に、約-200℃の金属棒を押し付けて凍傷を負わせました。その翌日に、ヒトの臍帯(さいたい、へその緒のことです)から採取したMSCを傷口に移植しました。元来は臍帯を構成する細胞ですが、幹細胞ゆえ、皮膚組織への変化による再生医療を念頭に置いた移植です。この時、以下の3通りの方法を比較しました。すなわち、1) ケルセチンで処置していないMSCを移植、2) ケルセチンで処置したMSCを移植、3) 対照としてMSCの移植なし。
14日後の状態は、2)は傷口を完全にふさぎましたが、1)は8割程度、3)は6割程度でした。凍傷の痕を観察すると、皮膚の再形成・肉芽組織の回復度・付属器官の歪みの回復の全てにおいて、2) > 1) > 3)でした。MSCを移植した効果が顕著に見られた上、ケルセチンによるMSCの働きの増強も示されました。
ケルセチンの役割を知るため、凍傷の痕で何が起きたか、遺伝子の変化も並行して調べました。移植から3日後、抗炎症物質を産出する遺伝子の発現が1)で極端に減少しました。3)での発現を1とした場合、0.3になりました。しかし、2)では2.5~4.0に上昇して、抗炎症作用を示唆しました。また、再生した皮膚組織には新しく毛細血管を作る必要があります。この血管新生を担う遺伝子の発現は、14日後に極端な違いがありました。3)での発現を1とした場合、1) の1.5に対して2)では4.5を示して、血管新生の活性化を示唆しました。
ケルセチンによるMSCの処置は、MSC移植における欠点を見事に補いました。不足しがちな、初期段階の抗炎症作用と末段階の血管新生を活性化して、凍傷の治療効果が増強されました。
キーワード: 凍傷、間葉系幹細胞、移植、ケルセチン、抗炎症作用、血管新生