シスプラチンに起因する骨髄抑制は、ケルセチンが改善する
出典: Journal of Nutritional Biochemistry 2022, 110, 109149
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0955286322002170
著者: Cheng-Hung Chuang, Yi-Chin Lin, Jung Yang, Shu-Ting Chan, Shu-Lan Yeh
概要: 血液は、骨の中心部に存在する骨髄という組織で作られます。骨髄抑制とは抗癌剤の副作用の一つで、血液を作る働きが低下する現象です。シスプラチンという抗癌剤は40年近く販売されているロングセラーですが、副作用に骨髄抑制が挙げられます。今回の研究では、シスプラチンがもたらす骨髄抑制を、ケルセチンが改善することが実証されました。
5週齢のマウスを3群に分けました。A群: 対照として薬物を投与しない。B群: 週に1回シスプラチン7.5 mg/kgを注射する。C群: 週に1回シスプラチン7.5 mg/kgを注射し、かつ、週に3回ケルセチン10 mg/kgを注射する。それぞれの処置を2週間継続した後、血液を検査しました。A群の血液成分は、骨髄細胞の数が1 mL中に約1400万個、白血球・赤血球・血小板の数は1 mm3中に約6000個、7万個、100万個でした。これがB群となると、900万個、3500個、5.5万個、75万個と極端に減少して、典型的な骨髄抑制の症状を示しました。しかしC群のデータは、1400万個、6000個、7万個、95万個となり、血小板以外はA群と全く同等でした。その血小板でも3群の数値を比べると、A群とC群の近さが分かります。従って、シスプラチンが影響を与えた骨髄抑制は、ケルセチンが正常化したことが示されました。
次に、ケルセチンの働きの詳細を知るため、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子の挙動を調べました。やたらと長い名前ですが、造血成長因子と呼ばれるグループに属し、白血球の形成に重要な役割を果たします。骨髄中の顆粒球マクロファージコロニー刺激因子を調べたところ、A群は9 pg/mL (p: ピコ、1兆分の1)に対して、B群は8 pg/mLとやや減少傾向にありました。ところがC群はA群を凌駕して、13 pg/mLとなりました。ケルセチンには元来、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子を増やす働きがあり、たとえシスプラチンが入っても、その影響を受けないことを意味します。
シスプラチンには、胃癌・食道癌・肺癌・子宮頸癌・卵巣癌・前立腺癌・骨肉腫と幅広い効能効果があり、骨髄抑制は実に残念な副作用です。今回のケルセチンで改善できる動物実験の結果は、癌の患者さんに素晴らしい朗報となりました。
キーワード: シスプラチン、骨髄抑制、ケルセチン、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子