ルチンの抗血栓作用を、モノクローナル抗体で増強する
出典: Journal of Drug Delivery Science and Technology 2022, 76, 103785
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1773224722006967
著者: Susanta Kumar Rout, Vishnu Priya, Vikas, Abhishesh Kumar Mehata, Madaswamy S. Muthu
概要: 血栓とは、血管の中で血液が固まる現象です。血栓が生じた箇所は血液が流れにくくなるため、血栓は心筋梗塞・虚血性心疾患・脳卒中の原因となります。ケルセチンやその仲間であるルチン(ケルセチンに2個の糖が結合した構造)には、血栓を作りにくくする働き、すなわち抗血栓作用があります。今回の研究では、ルチンが本来持つ抗血栓作用を更に増強する方法が、考案されました。
血液中には赤血球や白血球と並んで、血小板という第3の成分があります。出血を伴う切傷でも軽症であれば、やがて止血します。これこそ血小板の働きで、血小板が集って(凝集と呼ばれています)傷口をふさぐためです。傷口の血小板凝集は生命の維持に必須不可欠ですが、血管の内部で起こると、血栓の形成を招き非常に危険です。ケルセチンやルチンが抗血栓作用を示すのは、血小板の凝集を抑制するためです。従って、出血している所にケルセチンやルチンを塗ってはいけませんが、血栓の予防には強い味方になります。
ヒトから採取した血液を試験管に入れ、10時間放置しました。血小板が凝集して血栓が形成されるので、沈殿が生じます。この沈殿を分離して、その重さを測定して、形成された血栓の量とします。ルチンを添加した血液から形成した血栓は、添加しない時の50%でした。従って、ルチンの抗血栓作用を50%と評価しました。この値を改善すべく、血液中に多く存在するアルブミンという蛋白質の小さい球にルチンを載せました。血液と親和性が高い媒体を使うことで、血液中でのルチンを安定化することが目的です。予想どおり抗血栓作用は高まり、形成した血栓は無添加時の40%に抑えられました。更なる向上を図るべく、ワクチンの有効成分である、モノクローナル抗体の利用を検討しました。血小板を標的として認識するモノクローナル抗体を選び、アルブミン球の表面に結合しました。その球にルチンを担持したところ、抗血栓作用はより増強され、無添加時の25%を記録しました。
血液から分離した血小板を用いる実験でも同様に、ルチン単独<ルチンを載せたアルブミン球<ルチンを載せたアルブミン球(モノクローナル抗体付)の順でした。増強の鍵は、モノクローナル抗体が血小板を認識し、アルブミンで安定化されたルチンが確実に血小板へ届くためと考えれらます。
キーワード: ルチン、抗血栓作用、血小板、凝集、アルブミン、モノクローナル抗体