ケルセチンと光照射を組合せて、リンゴジュースを室温で滅菌する
出典: Food Control 2023, 144, 109362
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0956713522005552
著者: In-Hwan Lee, Eun-Rae Cho, Dong-Hyun Kang
概要: リンゴジュースのような「なまもの」は、人の口に入れる前に滅菌する必要があります。特にO157大腸菌やリステリア菌のような食中毒の原因となる場合は、1 mL当たりの菌数を10万分の1以下に減らすことが世界的な基準です。最も確実でしかも汎用されている方法は、加熱による滅菌です。しかし、加熱しては風味や色が変化するので、リンゴジュースのような自然の味が重視される場合は、必ずしも加熱滅菌が最適手段ではありません。今回の研究では、ケルセチンを加えて光を照射すると、加熱することなく室温で十分に滅菌され、風味や色を損なわないことが実証されました。
リンゴジュースにケルセチンを50 μMの濃度になるように加えて、青色LEDの光を60分間当てました。その結果、1 mL当たりのO157大腸菌は、処置前の10万分の1以下となり、世界基準を満たすことが出来ました。また、リステリア菌には更に有効で、1,000万分の1に近い滅菌を達成しました。ケルセチンだけ加えて光の照射を省略すると、O157大腸菌・リステリア菌ともに変化がありませんでした。増えることはなくとも、全く滅菌されなければ意味がなく、光照射には重要な意味があります。面白いことに、光の照射時間の60分間も重要な要素でした。45分間の照射時間では1 mL当たりのO157大腸菌は1万分の1で、30分間では1,000分の1となり、いずれも基準から遠く離れた結果でした。ケルセチンの濃度も結果を左右し、50 μMより濃くても薄くても基準から外れました。ケルセチン濃度を25 μMにして他の条件(青色LED、60分間)を一緒にすると、1 mL当たりのO157大腸菌は1,000分の1でした。また、75 μMの濃度では1万分の1で、基準を満たした濃度は50 μMのみでした。
世界基準を満足したケルセチン濃度50 μM+青色LEDの60分間照射は、風味と色の面でも最適条件でした。酸味・濁り具合・色・ポリフェノールの含量のいずれの評価項目も、滅菌前と変化がありませんでした。
菌は減らし、風味と色は変えず。ケルセチンと光との組合せで安全かつ美味しいリンゴジュースを供給する、素晴らしい手段が発見されました。
キーワード: リンゴジュース、滅菌、ケルセチン、光、O157大腸菌、リステリア菌