睡眠不足によるマウスの記憶障害は、ケルセチンが改善する
出典: Biochemical and Biophysical Research Communications 2022, 632, 10-16
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0006291X22013444
著者: Yangming Zhang, Yuqiao Xie, Zishuo Cheng, Kaiwen Xi, Xin Huang, Fang Kuang, Wenting Wang, Tiaotiao Liu, Baolin Guo, Shengxi Wu
概要: 睡眠不足の時に頭の働きが鈍くなる経験は、誰にでもあると思います。今回の研究では、睡眠不足に起因する記憶障害はケルセチンで改善されることが、マウスを用いる実験で実証されました。
飼育箱に直径が3 cmで高さが5 cmの円柱を並べて、その上でマウスを寝かせます。飼育箱に水をはっておき、眠り始めて体の力が抜けると円柱から水の中に落ちるので目が覚めます。再び円柱に昇って寝ても、同じことが繰り返されるため翌日は睡眠不足の状態です。一方、対照群は水をはらない以外は同一の条件で過ごします。たとえ円柱から落ちても水がないので、その場で眠ってしまい、睡眠不足にはなりません。
睡眠不足と、睡眠不足でないグループが用意できたので、新奇探索試験というテストを行いました。マウスには初めて見る新しい物に興味を示す習性があり、これを利用する試験です。このため「新規」ではなく、「新奇」と表記します。まず2種類の物体を飼育箱に入れ、10分間マウスを自由に行動させます。次に片方の物体を別の物体と置換えて、5分間の行動を観察します。記憶が正常であれば、以前からあった物体と新しい物体とが識別できますので、習性に従って新しい物体に近づく時間が長くなります。実際、睡眠不足でないマウスは、5分間の内25秒間が新しい物体に寄った時間で、もう片方の既知の物体の近くにいた時間は7秒間でした。ちなみに、それ以外の267秒間は箱の中を歩き回りました。一方、睡眠不足のマウスは、どちらの物体に近寄った時間は7秒間で差がなく、記憶障害を端的に示しました。
ケルセチンの効果を検証するために、次の実験を行いました。マウスを2群に分け、ケルセチンか生理食塩水のいずれかを注射しました。その後、両群とも先程の飼育箱に水をはった方法で、睡眠不足にします。2度目の注射をしてから、同様に新奇探索試験を行いました。その結果、生理食塩水のマウスはそれぞれの物体の接近時間が7秒間と7秒間で、記憶障害のままでした。しかし、ケルセチンを注射したマウスには16秒間と6秒間の顕著な差が見られ、改善効果を認めました。
睡眠不足は出来る限り避けたいところですが、何らかの事情で眠れない時には、ケルセチンが強い味方となることを示唆する結果でした。
キーワード: 睡眠不足、記憶障害、新奇探索試験、ケルセチン、マウス