ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

マイクロRNAとケルセチンが癌に効く仕組み

出典: Bioscience of Microbiota, Food and Health 2023, 42, 87-93

https://www.jstage.jst.go.jp/article/bmfh/42/1/42_2022-056/_article

著者: Motoki Murata, Satomi Komatsu, Emi Miyamoto, Chihiro Oka, Ichian Lin, Motofumi Kumazoe, Shuya Yamashita, Yoshinori Fujimura, Hirofumi Tachibana

 

概要: この連載で再三述べているように、ケルセチンは癌細胞を死滅させますが、その仕組みの詳細は不明な点が多いのが現状です。今回の研究で明らかにされたケルセチンの挙動は、子宮頸癌細胞において抗癌性のマイクロRNAを増大する働きです。

マイクロRNAとは遺伝子の一種ですが、文字通りサイズの小さいRNAで、それ自身は遺伝子情報としての蛋白質を作る働きがありません。その代わりに、蛋白質を作るmRNA(メッセンジャーRNA)に結合して、mRNAの働きを妨害することが出来ます。今回の研究で登場する癌抑制性のマイクロRNAならば、癌細胞の増殖に必要な蛋白質を作るmRNAの働きをマイクロRNAが抑制して、増殖できなくします。その結果、その癌細胞は死滅することになります。

HeLa細胞という、子宮頸癌細胞があります。約70年前に、Henrietta Lacksさんという米国人の子宮頸癌の患者さんから採取した細胞で、その姓名から二文字ずつ取って命名しました。以来、癌の研究で最も利用されてきた細胞の一つです。このHeLa細胞にケルセチンを作用すると、3種類もの癌抑制性のマイクロRNAが、細胞内に増えました。ケルセチンを添加する前に存在した、癌抑制性マイクロRNA3種の量を1とします。ケルセチンを作用した際の、マイクロRNA3種の相対的な量を測定しました。2.5 μMのケルセチン濃度にて、相対量は1.1~1.4程度でしたが、ケルセチン濃度を5.0 μMにすると2.2~2.7と、マイクロRNAが大幅に増大しました。

次に、マウスにHeLa細胞を注射して、子宮頸癌を誘発しました。注射した5日後に、子宮頸部に腫瘍ができたことを確認して、3群(ケルセチン投与なし、ケルセチン低用量10 mg/kg、ケルセチン高用量50 mg/kg)に分けました。12日間に渡ってケルセチンを飲ませた後、腫瘍組織から採取した切片における、先程と同様の癌抑制性マイクロRNA3種を調べました。ケルセチンを飲まないマウスを1とした時の相対量は、ケルセチン低用量で1.2~1.4、高用量で1.7~2.0となりました。

HeLa細胞にて、ケルセチンは癌抑制性のマイクロRNAを増大して、増殖を抑制します。本研究で、ケルセチンが持つ抗癌作用の仕組みの一部が、解明されました。

キーワード: マイクロRNA、ケルセチン、HeLa細胞、子宮頸癌、マウス