ケルセチンとリコペンの組合せは、血管内皮細胞を酸化ストレスから守る
出典: Current Research in Food Science 2022, 5, 1985-1993
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2665927122001885
著者: Xuan Chen, Liufeng Zheng, Bing Zhang, Zeyuan Deng, Hongyan Li
概要: 血管内皮とは血管の最も内側に位置する部位で、血液の流れが一定になるように、血管が硬すぎず柔らかすぎず良い状態を保つ重要な働きをします。従って、血管内皮の機能が低下すると、高血圧・肥満・メタボリックシンドローム・動脈硬化・糖尿病の原因となります。今回の研究では、ケルセチンとリコペンとの組合せが、血管内皮を酸化ストレスから効率よく保護することが示されました。
血管内皮を傷つける第一の要因は、活性酸素種です。活性酸素種とは、空気中の酸素がより反応性の高い状態に変化したもので、体内の組織を損傷する厄介な物質です。この活性酸素種を除去する物質を抗酸化物質と呼びますが、その代表がケルセチンです。また、トマトに多く含まれるリコペンという赤色成分にも優れた抗酸化作用が知られています。
ヒトの臍帯(へその緒)から採取した静脈の内皮細胞を、過酸化水素で刺激しました。過酸化水素も活性酸素種の仲間ですが、細胞内ではさらに強力な形に変化して、活性酸素種が増加します。そこにケルセチンやリコペンを添加すると、当然ながら、過酸化水素が増やした活性酸素種を低減しました。しかし、両者を組合せると、それぞれの単独作用時と比べてはるかに多くの活性酸素種が除去できました。しかも、ケルセチン:リコペン 1:5の比で混合した時が、最も強力な除去作用となりました。また、Nox4という活性酸素種を作る蛋白質の挙動も、活性酸素種と連動していました。すなわち、過酸化水素がNox4を増やし、ケルセチンやリコペンを加えると減り、組合せは更に減らしました。
組合せを作用させた際、血管内皮細胞に何が起こったか調べたところ、サーチュイン1という遺伝子の発現が非常に活性化されていました。先ほどの活性酸素種の除去と同様に、ケルセチンやリコペンそれぞれの単独作用時もサーチュイン1の発現を活性化しましたが、組合せた時がより強力でした。サーチュイン1には、生活習慣病を予防したり、老化を遅らせる働きが知られ、「長寿遺伝子」という別名があるほどです。もちろん、サーチュイン1には活性酸素種の生成を抑制する性質もあります。
活性酸素種の除去効果とサーチュイン1の活性化との間には、関連があるのか無いのかを明らかにすべく、次の実験を行いました。ケルセチンとリコペンだけでなく、サーチュイン1の阻害剤も加えた3成分の組合せで同様の実験を行いました。その結果、活性酸素種の除去作用は全く打消され、過酸化水素で刺激したケースと同様のレベルでした。従って、サーチュイン1が活性化された結果、抗酸化作用を発揮する密接な因果関係が明らかになりました。
キーワード: 血管内皮、ケルセチン、リコペン、活性酸素種、抗酸化作用、サーチュイン1