ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ケルセチンは熱ショック蛋白質の発現を阻害してウィルスに対抗する

出典: Viruses 2022, 14, 2365

https://www.mdpi.com/1999-4915/14/11/2365

著者: Nannan Chen, Yu Liu, Tongtong Bai, Jinwei Chen, Zhibo Zhao, Jing Li, Baihui Shao, Zecai Zhang, Yulong Zhou, Xue Wang, Zhanbo Zhu

 

概要: 牛ウィルス性下痢は文字どおり牛の伝染病ですが、その原因ウィルスの増殖をケルセチンが抑えることが発見され、その仕組みも解明されました。

他の細菌類とは違うウィルスに特有な性質として、自力では増殖できず、別の細胞の助けが必要です。ウィルスの増殖を助ける細胞を「宿主細胞」と呼び、宿主細胞の中に入ることを「感染する」と呼びます。「インフルエンザに感染した」という言葉をよく耳にしますが、その人が持つ細胞が宿主細胞となり、インフルエンザウィルスの増殖を助けていることを意味しています。

今回の研究では対象が牛の病原ウィルスですので、牛の腎臓細胞を宿主細胞に用いる実験を行いました。宿主細胞にケルセチンと病原ウィルスを作用させますが、その順番の違いを比較しました。まずケルセチンで処置をしてからその後に病原ウィルスに感染させる方法と、その逆バージョンの、まず病原ウィルスに感染させた後にケルセチン処置する方法を比較しました。どちらの場合も、ケルセチンは宿主細胞内のウィルスを減らすことに成功しましたが、その量は大きく違いました。先にケルセチンを作用させた方が、ウィルスの量は後に加えた時の半分以下でした。この事実は、ケルセチンが病原ウィルス感染の初期段階を阻害して、増殖を抑制することを意味します。

宿主細胞内では、病原ウィルスだけでなく、熱ショック蛋白質と呼ばれる蛋白質も同じような挙動を示し、先にケルセチンを作用させた方が効率よく減りました。病原ウィルスと熱ショック蛋白質とが感染の初期段階において同時に減っていれば、両者は互いに関連しているとの疑問が湧いてきます。この疑問に答えるために、次の実験を行いました。熱ショック蛋白質に干渉して、その働きを抑制するサイレシングRNAという物質をケルセチンの代わりに宿主細胞に作用させて、病原ウィルスに感染させました。その結果、ケルセチンの場合と全く同じように細胞内の病原ウィルスが減少しました。

従って、ケルセチンがウィルスの増殖を抑制した理由は熱ショック蛋白質の阻害という、仕組みが明らかになりました。さらに、このウィルスに感染したマウスにケルセチンを飲ませても、体内のウィルスが減少しました。

ちなみに、牛ウィルス性下痢のワクチンはありますが、適切な治療薬が存在しないのが現状です。今回の結果は、ケルセチンが素晴らしい朗報をもたらしました。

キーワード: 牛ウィルス性下痢、病原ウィルス、増殖、ケルセチン、熱ショック蛋白質