ケルセチンは腸内細菌叢を整え、腸のバリア機能を強化する
出典: Frontiers in Microbiology 2022, 13, 983358
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fmicb.2022.983358/full
著者: Wei Mi, Zhiyong Hu, Lanlan Xu, Xiangyu Bian, Wu Lian, Shuying Yin, Shuying Zhao, Weina Gao, Changjiang Guo, Tala Shi
概要: 腸内細菌叢とは、腸に生息する細菌類の総称で、その挙動で善玉菌、悪玉菌というグループに分類されます。ビフィズス菌や乳酸菌などは善玉菌として、健康維持や老化防止に機能します。一方、大腸菌やブドウ球菌など、病原菌として体に悪影響を与える菌が悪玉菌です。今回の研究では、ケルセチンが善玉菌を増やし、悪玉菌を減らすことが示されました。
まず、マウスに4種混合した抗生物質を飲ませます。抗生物質には菌類を死滅する働きがありますので、腸内細菌叢が最小限の菌類だけで構成され、いわばリセットした状態となります。実際、腸内細菌叢は、プロテオバクテリア門と呼ばれるグループの菌だけになりました。
リセットが完了した後、マウスを2群に分けました。片方は通常の餌で飼育し、もう片方は0.2%のケルセチンを添加した餌を与えました。それぞれの餌を与える期間は14日で、その後に腸内細菌叢を比較しました。
その結果、ケルセチン群は対照群と比べてフェカリバキュラムという菌が大幅に増えました。この菌は、腸内で乳酸菌を産出することが知られ、典型的な善玉菌です。その次にケルセチン群で増えたのが、エンテロラブダス・セシムリスという菌でした。これも善玉菌に属し、腸内を弱酸性に保ち、感染症を防止する働きがあることが分かりました。その一方で、通常の餌に比べてケルセチンが減らした菌も存在します。アリスティペス属というグループが最も減りましたが、大腸癌の発症原因となる悪玉菌です。
腸内細菌叢以外にも、ケルセチンの好影響も見出されました。両群を比較すると、ケルセチン群の腸のバリア機能が強化されました。腸は栄養分を吸収するだけでなく、有害な菌や物質は吸収しない働きもあり、バリア機能と呼ばれます。いわば、体を正常に保つために、水際で外敵を防衛するのが腸のバリア機能です。ケルセチン群の腸には、オクルディンという蛋白質も増えていました。オクルディンは密着結合蛋白質として働き、隣り合う細胞の結合を強くして、有害物が通過するのを防ぎます。腸全体で細胞間の密着結合が強化されて、バリア機能が向上しました。遺伝子の解析を別途実施したところ、ケルセチンによる腸内細菌叢の変化とオクルディンの発現とは、良好に相関していることが明らかになりました。
キーワード: 腸内細菌叢、善玉菌、悪玉菌、ケルセチン、バリア機能、オクルディン