ケルセチンは六価クロムからフェヌグリークを守る
出典: Frontiers in Plant Science 2022, 13, 956249
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpls.2022.956249/full
著者: Muhammad Ashfaq Aslam, Shakil Ahmed, Muhammad Saleem, Anis Ali Shah, Adnan Noor Shah, Mohsin Tanveer, Hayssam M. Ali, Rehab Y. Ghareeb, Mohammad E. Hasan, Jallat Khan
概要: 六価クロムは発癌性があり、特定有害物質に指定されています。土壌溶出量基準が0.005 mg/L以下と定められているように、厳しい規制があります。その甲斐があり、最近では六価クロムによる環境汚染が社会問題となるニュースは少なくなりました。今回の研究では、フェヌグリークというハーブや香辛料の原料となるマメ科の植物を実験材料に用いて、六価クロムによる悪影響と、ケルセチンによる保護作用が実証されました。
まず、フェヌグリークの発育に対する六価クロムの影響を調べました。植物園から採取した土を高温で殺菌して、標準の栽培条件としました。比較として、この土に重クロム酸カリウムという典型的な六価クロムを加え、汚染された土壌を再現しました。発芽したフェヌグリークの種5個を、それぞれの土壌で45日間栽培しました。標準の土壌で栽培したフェヌグリークの根の長さは、5検体の平均が8.10±0.10 cmでした。地上部の長さの平均が35.70±0.10 cmで、葉の数は21.00±1.00枚となりました。一方、六価クロムを加えた土壌では、三指標が5.20±0.10 cm、25.20±0.10 cm、12.00±1.00枚となり、発育への六価クロムの悪影響が明らかになりました。
次に、ケルセチンの効果を調べました。種の段階でケルセチンの処置を行います。すなわち、25 μMの濃度のケルセチン溶液に8時間漬けた後、発芽させ、同じように六価クロムを加えた土壌で45日間栽培しました。その結果、三指標は9.80±0.10 cm、60.37±0.55 cm、32.67±2.31枚でした。六価クロムが存在しながら、三指標とも標準条件を凌駕しました。ケルセチンは、六価クロムに対抗しつつ、標準以上にフェヌグリークの発育を促したことになります。
植物一般において、発育と直結する現象は光合成です。そこで、光合成がどれだけ活発に行われているかを調べました。光合成を促進する要素の一つに、二酸化炭素を取込み、酸素を放出するガス交換があります。ガスを通りやすくする気孔の電導度と、細胞間の二酸化炭素の濃度(ガス交換した結果)はいずれも、六価クロムが低下し、ケルセチン処置が上昇していました。従って、ケルセチンが六価クロムの悪影響をものともせず、発育を促進したのは、光合成の活性化が理由でした。
植物がケルセチンを産出するのは、外敵から身を守るためです。六価クロムは、本来天然には存在せず、人間の活動としての産業廃棄物の中にあります。それなのに、ケルセチンがフェヌグリークを六価クロムから守ったことに驚かされます。
キーワード: 六価クロム、フェヌグリーク、発育、ケルセチン、光合成