ケルセチンは多嚢胞性卵巣症候群を改善する: 無作為化二重盲検プラセボ対照試験
出典: American Journal of Reproductive Immunology 2023, 89, e13644
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/aji.13644
著者: Sima Vaez, Kazem Parivr, Fardin Amidi, Nasim Hayati Rudbari, Ashraf Moini, Naser Amini
概要: 多嚢胞性卵巣症候群とは、排卵障害の一つです。排卵前の卵子は、細胞に囲まれて卵巣内に存在しますが、そこで成長が止まり排卵が起こりません。主な原因は男性ホルモンの過多であり、毛深くなる・にきびが増える・肥満といった症状を伴うケースもあります。多嚢胞性卵巣症候群は不妊の原因になる上、放置すると子宮体癌のリスクが高まるため、適切な治療が必要です。今回の研究は、2020年11月~2021年11月にかけて、イランのテヘラン大学病院にて、無作為化・二重盲検・プラセボ対照で行われました。
20~37歳の多嚢胞性卵巣症候群患者72名を、ランダムに2群に分けました(無作為化)。片方の36名は介入群として、ケルセチン500 mgを1日1回摂取しました。もう片方の36名は、ケルセチンを含まないプラセボを1日1回摂取して対照群としました(プラセボ対照)。40日間の摂取期間は勿論、全てのデータ解析が完了するまでは、どちらの群に属するか、患者さんにも医療従事者にも一切知らせません(二重盲検)。また、プラセボの見た目をケルセチンと同一にして、ケルセチンかプラセボか分からないように仕組まれています。摂取期間の前後に血液検査を行い、ホルモンと炎症の変化を調べました。
ホルモンのデータとして、ケルセチン群の黄体形成ホルモンは、対照と比べて顕著に低下しました(P=0.029)。一方、卵胞刺激ホルモンの変化は、両群間で差がありませんでした。一般に多嚢胞性卵巣症候群は、黄体形成ホルモンが卵胞刺激ホルモンを上回っていて、排卵が起こりにい状態です。ゆえに、黄体形成ホルモンが低減し卵胞刺激ホルモンが変わらなかった今回の結果は、ホルモンバランスの異常を改善したことになります。従って、実に有望な結果と言えます。
また炎症のデータとしては、炎症誘導因子であるIL-6とTNF-α が、ケルセチン群で対照と比べて大幅に(P= 0.001および0.008)減少しました。多嚢胞性卵巣症候群の発生は、炎症因子の増大と関連していることが知られています。よって、ケルセチンによる炎症誘導因子の低減も、多嚢胞性卵巣症候群の改善につながる有望なデータです。
最後に、摂取期間が終了してから6ヶ月に渡り、追跡調査を行いました。その結果、ケルセチン群では36名中26名が妊娠しました。内訳は、自然妊娠が12名で、体外受精が14名です。一方の対処群で妊娠した人は36名中4名で、全員が体外受精でした。ケルセチンは多嚢胞性卵巣症候群の改善のみならず、妊娠率も向上させました。
キーワード: 多嚢胞性卵巣症候群、ケルセチン、臨床研究、無作為化、二重盲検、プラセボ対照