ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

イソラムネチンはアミロイドβの毒性から脳神経を守る

出典: Oxidative Medicine and Cellular Longevity 2022, 3652402

https://www.hindawi.com/journals/omcl/2022/3652402/

著者: Pei-Cih Wei, Guey-Jen Lee-Chen, Chiung-Mei Chen, Ying Chen, Yen-Shi Lo, Kuo-Hsuan Chang

 

概要: アルツハイマー病の患者さんの脳には、老人斑と呼ばれる斑点が見られます。老人斑は、脳神経を損傷する原因であるアミロイドβという蛋白質の塊です。脳神経が損傷すると、記憶力の低下に始まり、ひいては日常生活に支障をきたすほど認知機能障害を招きます。従って、アミロイドβはアルツハイマー病の根源と考えられます。今回の研究では、ケルセチンが体内で変化して作られるイソラムネチンという物質が、アミロイドβの毒性から脳神経を保護する現象が見出されました。

脳内で免疫を司るミクログリアという細胞を、アミロイドβで刺激しました。免疫に関係するので外から受けた刺激に応答しますが、何と、IL-6という炎症を誘導する物質がミクログリアから多く放出されました。刺激する前はIL-6の濃度が87 pg/mLだったのに対して、アミロイドβを作用した後は366 pg/mLに上昇しました。その後イソラムネチンを加えると、IL-6濃度は214 pg/mLに低下しました。また、アミロイドβによってミクログリアの生存率が減少しましたが、イソラムネチンを加えると生存率を回復しました。

ミクログリアを介してアミロイドβが脳内にIL-6を増やすこと、それをイソラムネチンが抑制することが分かりました。そこで次に、実際に脳神経細胞を用いて、IL-6の悪影響とイソラムネチンの改善効果を検証する実験が行われました。脳神経細胞をIL-6で刺激すると、生存率が低下し、活性酸素種が増えました。活性酸素種とは、空気中の酸素がより反応性の高い状態に変化したもので、脳神経に限らず体内の組織全般を損傷する厄介な物質です。IL-6を作用させる前の活性酸素種の量を1とすると、IL-6で1.91と約2倍に上昇しました。しかし、イソラムネチンを加えると1.39に減少して、悪影響を軽減しました。また、神経伝達で重要な部分である神経突起はIL-6が縮小させましたが、イソラムネチンが回復させました。神経突起の縮小は、アポトーシスという現象で説明されます。アポトーシスとは、予め予定されている細胞の死のことで、オタマジャクシがカエルに成長する際の尻尾の消滅と一緒です。まるでオタマジャクシの尻尾が消滅するごとく、神経突起を消滅するのがIL-6ですが、イソラムネチンが歯止めを掛けました。実際、アポトーシスを誘導する酵素の挙動は、神経突起の縮小・回復と良好に一致しており、IL-6が増やし、イソラムネチンが減少させました。

以上、イソラムネチンの活躍ぶりを述べましたが、イソラムネチンの元はケルセチンです。食事でケルセチンを多く摂って、体内のイソラムネチンを増やして、アルツハイマー病を予防しましょう。

キーワード: アルツハイマー病、アミロイドβ、ミクログリア、IL-6、脳神経、イソラムネチン