劣化した油はフライドチキンに発癌物質を作るが、水とケルセチンで防止できる
出典: Current Research in Food Science 2023, 6, 100406
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2665927122002283
著者: Xuefei Li, Zili Yang, Jieying Deng, Conggui Chen, Baocai Xu, Peijun Li
概要: 揚げ物の油を何度も使い回すと、油は次第に劣化します。劣化した油は、揚げ物の風味が悪くなるだけでなく、時に発癌物質が生成するので注意が必要です。今回の研究では、水やケルセチンを油に加えると、発癌物質の生成を抑えることが実証されました。
骨付き鶏モモ肉を揚げて、フライドチキンを作ります。揚げ終えたフライドチキンを分析して、ノルハルマンという発癌物質の濃度を調べました。8回使い回した油で揚げたフライドチキンからは5.0 ng/gのノルハルマンが検出され、10回目では9.3 ng/gでした。ナノグラム(ng )とは、10億分の1グラムです。濃度にすると0.005~0.0095 ppmですので、この程度のノルハルマンであれば発癌の心配はなく、安心して食べられます。しかし、油の劣化が8~10回目で顕著になることは、まぎれもない事実です。
次に、水を入れた油を用いて鶏肉を揚げました。正反対の性質を持つ二つを「水と油」と言うように、両者は混じり合うことがなく、水は下に沈み、油は上に浮きます。水と油の境界より上に網を置いて、その網に鶏肉を乗せて揚げるので、従来と変わらない揚げ方です。しかし、鶏肉の残骸が下に沈み、水に溜まります。このため、油に残骸がほとんど残らず、数回使い回しても、新鮮な油が期待できます。実際、水を加えた時に検出されたノルハルマンは、8回目で3.3 ng/gで、10回目は5.1 ng/gでした。従って、水によるノルハルマンの生成抑制率は、55~65%となります。
油の劣化要因には、食物の残骸だけでなく、酸化による劣化もあります。そこで、抗酸化作用のあるケルセチンを油に加えれば、酸化による劣化を防げるのではないかと考えました。残念ながら、ケルセチンを加えた油を用いた場合のノルハルマンの生成抑制率は29%で、水には及びませんでした。しかし、水とケルセチンの両方を加えた油では、80%の抑制率を記録しました。水が残骸を除き、ケルセチンが酸化を防止すれば、油の劣化を遅らせて、ひいてはノルハルマンの生成を抑制しました。
トリプトファンというアミノ酸に熱をかけると、ノルハルマンが生成します。鶏肉に含まれる蛋白質は、20種類のアミノ酸から構成されているので、トリプトファンは必ず含まれています。各条件におけるフライドチキン中のトリプトファン濃度は、劣化油が4.3 μg/g、ケルセチンのみ加えた油が4.8 μg/g、水のみ加えた油が5.8 μg/g、両方加えた油が7.5 μg/gでした。この事実は、原料であるトリプトファンが多く残れば、その分ノルハルマンの生成を抑制できたことを意味しています。
キーワード: 油、劣化、フライドチキン、発癌物質、ノルハルマン、水、ケルセチン、抗酸化作用