ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ケルセチンとメトホルミンは相乗的に、糖尿病に伴う内皮機能不全を改善する

出典: Scientific Reports 2022, 12, 21393

https://www.nature.com/articles/s41598-022-25739-5

著者: Jestin Chellian, Kit-Kay Mak, Dinesh Kumar Chellappan, Purushotham Krishnappa, Mallikarjuna Rao Pichika

 

概要: 血管内皮とは血管の最も内側に位置する部位で、血液の流れが一定になるように、血管の収縮と拡張を調節します。糖尿病にかかると、血管内皮が絶えず高濃度の糖に晒されて損傷を受けるため、内皮機能が低下します。今回の研究では、ケルセチンと糖尿病薬のメトホルミンとを組合せると、糖尿病を治療する上、付随する内皮機能不全まで改善することが示されました。

まず、ラット75匹を、正常・糖尿病・糖尿病でケルセチン処置・糖尿病でメトホルミン処置・糖尿病でケルセチンとメトホルミンの組合せ処置の5種類のグループに15匹ずつ分けます。ラットを糖尿病にするには、2種類の毒素を飲ませます。ケルセチンの投与量は10 mg/kgに設定し、メトホルミンは180 mg/kgとしました。また、投与期間は30日間としました。

糖尿病そのものの改善効果ですが、血糖値を指標にして評価しました。当然ながら、糖尿病になると血糖値が上昇します。ケルセチン・メトホルミンともに血糖値を大幅に下げて改善効果を示しましたが、正常ラットの血糖値に比べればまだ高いレベルでした。しかし、組合せを投与したラットの血糖値は、正常と同等となるまで下がりました。

次に、本研究のメインである、血管内皮機能を評価する実験をしました。血糖値の評価を終えたラットを解剖して、摘出した腹部と胸部の大動脈を実験材料にしました。外から大動脈を刺激を与えた時の、血管が拡張したり収縮する能力を比較します。血管の拡張には、アセチルコリンという神経伝達物質を用いました。一方、血管の収縮には、フェニレフリンという血管収縮薬を作用させました。

アセチルコリンで拡張を誘発すると、糖尿病ラット由来の腹部大動脈の最大拡張は、正常ラットの60%でした。ケルセチン・メトホルミンそれぞれの単独投与由来では、いずれも79%でした。組合せの腹部大動脈は92%で、正常に近づくことが出来ました。また、正常を100%とした時のフェニレフリンによる収縮は、糖尿病が73%、単独投与が両方とも83%、組合せが91%となりました。詳細は省略しますが、胸部大動脈においても、拡張・収縮ともに同様の傾向を示しました。

ケルセチンが糖尿病を改善した研究は数多くありますが、血管内皮機能不全の改善にまで踏み込んだのは、本研究が初めてです。メトホルミンは、広く使われている糖尿病治療薬です。ケルセチンと組合せて治療効果が増強され、さらに血管内皮機能不全の改善まで示したのは、実にインパクトのある結果です。

キーワード: 糖尿病、血管内皮機能、大動脈、ラット、ケルセチン、メトホルミン、相乗効果