杜仲に含まれるケルセチン配糖体は、パルミチン酸が低下した肝細胞へのブドウ糖の取込みを回復する
出典: Biological and Pharmaceutical Bulletin 2023, 46, 219-229
https://www.jstage.jst.go.jp/article/bpb/advpub/0/advpub_b22-00597/_article/-char/ja/
著者: Peng Tang, Yong Tang, Yan Liu, Bing He, Xin Shen, Zhi-Jie Zhang, Da-Lian Qin, Ji Tian
概要: 杜仲とはトチュウ科に属する落葉高木で、その樹皮は中国の伝統医療で腰痛の対処に使われています。また、葉は杜仲茶という健康飲料で有名です。今回の研究では、杜仲の葉から、新規なケルセチン配糖体が発見されました。さらに、肝細胞に栄養分が行き渡らなくなる状態は、この新規ケルセチン配糖体が改善することも発見されました。
HepG2という肝細胞を、代表的な脂肪酸であるパルミチン酸で刺激すると、同細胞へのブドウ糖が取込まれにくくなりました。ブドウ糖は、食事で摂取したデンプンが消化・吸収されて、血液を介して全身の細胞に届けられます。ブドウ糖が肝細胞に取込まれないことは、肝臓に栄養分であるブドウ糖が行き渡らないことを意味し、糖尿病を細胞レベルで再現したことになります。余談ながら、肝臓のみならず全身の細胞にブドウ糖が取れこまれないのが糖尿病で、栄養分として利用されないから仕方なく尿で排出されるため、この名前になりました。
実際、肝細胞に0.5 mMのパルミチン酸を作用させると、ブドウ糖の取込みは元の40%にまで低下しました。ここに、杜仲から得た新規ケルセチン配糖体を添加しました。4 μMの濃度ではブドウ糖の取込みが75%に回復し、8 μMの濃度では80%になりました。ブドウ糖が取込まれた後は、肝細胞内でグリコーゲンという物質に代わり、エネルギー源として蓄えられます。パルミチン酸を作用した直後の肝細胞中のグリコーゲン生産量は、元の35%に落ちました。4 μMのケルセチン配糖体は、グリコーゲンの生産量を70%にまで戻し、8 μMの濃度では85%に回復しました。
次に、肝細胞で起きた遺伝子の変化を調べました。パルミチン酸は、GLUT2という遺伝子の発現を極端に低下しました。ところが、ケルセチン配糖体には低下したGLUT2の発現を急速に回復する働きがありました。2 μMのケルセチン配糖体による発現量は、パルミチン酸を作用した時の約2倍でした。4 μMに濃度を上げると、元の発現量とほぼ同等でした。8 μMでは、元の発現量を凌駕しました。ちなみに、GLUT2は、ブドウ糖輸送体という蛋白質を産出する遺伝子です。文字通り、ブドウ糖を運ぶ蛋白質ですが、細胞に取込まれる時に機能します。ブドウ糖は水に溶けやすいため、ブドウ糖単独では、親油性の高い細胞膜を通過することができません。ブドウ糖輸送体に結合すると、ブドウ糖を蛋白質が取り囲む構造になりますので、細胞膜を通過して、ブドウ糖は細胞内に取込まれます。
以上、杜仲から新規に発見されたケルセチン配糖体による、パルミチン酸が低下した肝細胞へのブドウ糖の取込みの回復効果が、遺伝子レベルで解明されした。まだ、細胞実験の成果ですが、糖尿病の治療薬に実用化されるか、今後の展開が楽しみです。
キーワード: 杜仲、ケルセチン配糖体、肝細胞、パルミチン酸、ブドウ糖、GLUT2、糖尿病