ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ルチンが拓く心筋梗塞の再生医療

出典: Molecular and Cellular Biochemistry 2023, 478, 1759–1770

https://link.springer.com/article/10.1007/s11010-022-04628-5

著者: Tuba Mustafa, Irfan Khan, Hana’a Iqbal, Sehrish Usman, Nadia Naeem, Shaheen Faizi, Asmat Salim

 

概要: 心筋梗塞は、血管の詰り(梗塞)が原因で心臓を構成する筋肉(心筋)に酸素が行き届かなくなり、心筋が壊死を起こします。壊死した心筋は元に戻らないため、壊死部分が増えると心機能が低下して、最後には死に至ります。そこで、間葉系幹細胞(以下、MSC)と呼ばれる細胞を心筋に移植する治療法が考案されています。MSCは骨髄に存在しますが、心筋・骨・血管の各細胞に変化できる一種の万能細胞です。従って、心筋梗塞で壊死した所にMSCを移植すれば、MSCが心筋細胞に変わるので、新しく心筋組織が作られる再生医療が期待できます。

しかし実際は、心筋の再生医療には多くの課題があり、実用化には至っていません。特に、若いラットには可能でも、老齢のラットには心筋の再生が不可能です。今回の研究では、ケルセチンに糖が結合したルチンが、老化すると適用できない最大の課題を解決しました。

8~10週齢の若いラットと、13~18月齢の老齢ラットそれぞれの動脈を糸で縛って、心筋に血液が行きにくくして、心筋梗塞にしました。その結果、両方とも心機能は著しく低下しました。心臓に超音波を当てて画像化(心エコー検査)したところ、心臓が収縮する体積も拡張する体積も低下しました。また、心臓の肥大も顕著でした。心臓の動きが鈍くなるので、血液を全身に届ける役割が不十分であることを意味します。

次に、動脈を縛った直後に心筋にMSCを移植し、2週間後に同様の検査を行いました。若いラットの心機能は、正常と同じレベルに戻りました。しかし、老齢ラットでは全く改善が見られず、移植の効果がありませんでした。

次に、MSCを10 μMのルチンで処理をして、移植しました。驚くことに、若いラットも老齢ラットも同じように、心臓の収縮と拡張する体積・心肥大の全てが正常化されました。ルチンで処理したMSCの移植によって、これまで不可能とされていた老齢ラットでも心筋梗塞で破壊された組織が再生できました。

一般に、心筋梗塞は加齢に伴って発症が増える病気ですので、再生医療を必要とするのは高齢者です。従って、若いラットにのみ適用できても、再生医療の有難みは少ないと言えましょう。今回と同じ結果がヒトに実現できれば、夢だった心筋梗塞の再生医療が現実になるでしょう。

キーワード: 心筋梗塞、ラット、間葉系幹細胞、老齢、ルチン、心機能、再生医療