ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

メマンチンが有する記憶障害の改善効果は、ケルセチンが増強する

出典: Molecules 2023, 28, 417

https://www.mdpi.com/1420-3049/28/1/417

著者: Ratnakar Jadhav, Yogesh A. Kulkarni

 

概要: 塩化アルミニウムには、神経毒性を有することが知られています。今回の研究では、ラットに塩化アルミニウムを投与すると、脳の一部分である大脳皮質と海馬の神経が損傷して、記憶障害を誘発しました。しかし、ケルセチンやメマンチンが、記憶障害を改善することが明らかになりました。なお、メマンチンとはアルツハイマー病の治療に使われている、既存薬です。

60匹のラットを、10匹ずつ6グループに分けました。1) 正常群: 塩化アルミニウムを投与しない。2) アルミ群: 塩化アルミニウム100 mg/kgを毎日投与。3) メマンチン群: 塩化アルミニウム100 mg/kgとメマンチン20 mg/kgを毎日投与。4) ケルセチン群: 塩化アルミニウム100 mg/kgとケルセチン50 mg/kgを毎日投与。5) 併用群: ケルセチン群: 塩化アルミニウム100 mg/kgとメマンチン20 mg/kgとケルセチン50 mg/kgを毎日投与。投与期間は42日とし、終了後に受動回避試験という、記憶を評価する実験を行いました。

同じ大きさの箱を2個用意し、扉で仕切ってつなぎます。片方は照明し、もう片方は暗くします。暗い箱の底には電線が張り巡らしてあり、ラットが入ると、足に電気ショックが与えられます。まずラットを明るい箱にラットを入れ、暗い箱に入ると、床に電流が流れて2秒間の電気ショックを与えます。その後、ラットを明るい箱に入れ、暗い箱に入ろうとするまでの潜伏時間を測定します。ラットには暗い場所を好む習性がありますが、暗い箱で痛い思いをした記憶があれば、明るい箱に留まる潜伏時間が長くなります。正常群の潜伏時間は90秒間、すなわち、明るい箱に入った90秒後に初めて、暗い箱へ移ろうとしました。アルミ群の潜伏時間は53秒と極端に低下し、痛い記憶より習性が優先しました。メマンチン群は72秒間、ケルセチン群は70秒間と、同等に記憶障害が改善されました。しかし併用群では88秒間を記録して、正常群とほぼ同じレベルにまで改善されました。

次に、大脳皮質と海馬の組織を採取して、顕微鏡で観察しました。アルミ群の大脳皮質と海馬では、正常群の組織と比べて、神経細胞が大幅に減少し、変性した細胞も目立ちました。また、アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβという蛋白質の蓄積も増えました。メマンチン群・ケルセチン群ともに、大脳皮質と海馬の神経損傷を改善しました。やはり最大の改善効果は併用群に見られ、正常群の組織に近い形状を示し、受動回避試験の結果を支持しています。

アルツハイマー病の患者さんには、メマンチンが処方されるのが現状です。今回の結果は、メマンチンにケルセチンを追加すれば記憶障害がさらに改善され、正常近くまで回復することが期待できます。

キーワード: 塩化アルミニウム、ラット、神経毒性、記憶障害、受動回避試験、ケルセチン、メマンチン