ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

母子隔離に起因するラットの自閉症の行動は、ケルセチンが減少する

出典: Behavioural Brain Research 2023, 441, 114300

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0166432823000189

著者: Akbar Hajizadeh Moghaddam, Ali Eslami, Sedigheh khanjani Jelodar, Mojtaba Ranjbar, Vahid Hasantabar

 

概要: 自閉症は発達障害の一種で、対人関係を築くことが苦手で、特定の物に強いこだわりを示します。人との関わりに関心がない、その場の空気が読めない、特定の領域にしか関心を示さない、予想外のことや急な予定変更に混乱する、同じ動作ばかり繰り返す、などの特徴が見られます。今回の研究では、ラットにケルセチンを投与すると、自閉症に特徴的な行動が著しく改善されました。また、用いたケルセチンは特殊な脂質で処理して、体内に吸収されやすく加工してあります。

生まれたばかりの子ラットを、生後1~9日目に1日3時間ずつ、母ラットから隔離します。精神的なストレスと不安定さが、発達に悪影響を与えることが知られています。そこで、自閉症に特徴的な行動を誘発すべく、母子隔離を利用しました。次の10~21日目には、通常通り母子一緒に飼育します。21日目に授乳期間が終了するので、それ以降の3週間にケルセチン40 mg/kgの投与を行います。この際、通常のケルセチンと、吸収しやすく加工したケルセチンとの効果の違いを比較すべく、別々のグループに分けて、それぞれの形で投与しました。また、比較対照としての、ケルセチンを投与しないグループも別に設けました。

投与期間が終了した42日目に、行動のテストを行いました。箱の中に子ラットを入れ、10分間で足で毛繕いする時間を記録しました。正常なラット、すなわち母子隔離していないラットが毛繕いする時間は40秒でした。母子隔離してケルセチンを投与していないラットは190秒であり、毛繕いする時間が極端に長くなりました。特定のこだわりを持って同じ動作を繰り返す、自閉症の特徴が現れました。ところが、母子隔離してもケルセチンを飲ませたラットでは60~70秒で、顕著に改善されました。なお、ケルセチン加工の有無の違いは、この実験では観察されませんでした。

次に、社交性の度合いを調べる実験を行いました。被検ラット(試験の対象)を箱の中央に置き、10分間そのまま放置して、状況に慣れさせます。同じ年齢で同じ種族ながら、見たことのないラットを隣に連れてきて、10分後にはさらに別のラットも置きます。被検ラットにとっては、最初に連れてきたラットは既に10分間会っていて知っているラットであり、後のラットが未知となります。ラットには未知の物に興味を示す習性がありますが、社交性が欠如していれば、知っている方に接触する時間が長くなります。そこで、両者との接触時間の比率で、社交性の指標としました。数値が大きい程、社交性があることを意味します。正常のラットが3.5で、ケルセチンを飲んでいないラットでは0.8と、母子隔離の影響が明らかになりました。通常のケルセチンを投与たラットの指標は1.9で、かなりの改善が見られました。一方、加工したケルセチンでは正常と変わらない3.5を記録して、更なる改善は、吸収性の向上を反映しています。

キーワード: 自閉症、母子隔離、ラット、繰り返し行動、社交性、ケルセチン