糖尿病に伴う肺機能障害は、ケルセチンが軽減する
出典: Environmental Science and Pollution Research 2023, 30, 42390–42398
https://link.springer.com/article/10.1007/s11356-023-25254-8
著者: Noha Osama El-Shaer, Ahmed Medhat Hegazy, Marwa H. Muhammad
概要: 食事で摂取したでんぷんは消化されて糖に変わりますが、その糖は腸で吸収された後、血液で全身に運ばれて栄養源になります。糖尿病は、糖が栄養源として使われずに血中に残る病気です。その結果、使われない糖が尿と一緒に排出されるので、糖尿病と呼ばれる所以です。過剰の糖は、活性酸素種という老化や病気の原因になる物質を盛んに作るため、全身に悪さをしますが、肺も例外ではありません。今回の研究では、ラットを人工的に糖尿病にすると肺の機能が低下し、その後のケルセチンの投与で回復することが実証されました。
ラットにストレプトゾトシンという膵臓毒を飲ませて、糖尿病を誘発しました。72時間後には血糖値が上昇して、典型的な糖尿病の症状を示しました。糖尿病のラットを2つのグループに分け、片方はケルセチン(30 mg/kg)を飲ませ、もう片方には飲ませずに、それ以外は同じ条件で飼育しました。また、正常なグループとして、膵臓毒を飲まないラットも別に用意しました。
30日後に、肺の働きを調べるための検査を行いました。動脈から血液を採取して、酸素と二酸化炭素の濃度を分析しました。肺では、外から取り入れた酸素と、活動して不要となった二酸化炭素を交換します。動脈血とは、肺で取り入れた酸素を全身に運ぶべく、心臓を出たばかりの血液です。従って、酸素濃度は高く、二酸化炭素濃度は低いのが本来の姿です。ケルセチンを投与していない糖尿病ラットの酸素濃度は正常の80%に低下し、二酸化炭素濃度は正常の130%に上昇しました。この結果は、肺における酸素と二酸化炭素の交換が不十分であり、肺機能障害を示しています。ケルセチン群では、酸素濃度は正常の90%であり、二酸化炭素濃度は正常の110%でした。従って、糖尿病になっても、ケルセチンを30日間飲めば、肺機能障害が大幅に軽減されたことを意味します。
次に、肺の組織を調べました。肺の約85%は肺胞という袋状の器官が占め、肺胞で酸素と二酸化炭素が交換されます。ケルセチン投与の有無で、肺胞の炎症に顕著な差が見られました。非投与群では肺胞にむくみが生じ、形の歪みと出血が見られましたが、ケルセチン群ではこれらがなく、正常化されていました。肺機能障害の改善は、肺胞における炎症の抑制が鍵でした。炎症を誘発するNLRP3という蛋白質を作らせる遺伝子の発現も調べました。正常のラットを1とした時の比率は、非投与群群が3.3で、ケルセチン群が1.7と、ケルセチンの炎症抑制作用が明らかになりました。
ケルセチンが改善したのは、肺機能だけではありません。糖尿病の本来の症状である血糖値の上昇も、ケルセチンの投与で正常近くまで回復しました。
キーワード: 糖尿病、肺機能障害、酸素、二酸化炭素、ラット、ケルセチン、炎症抑制、肺胞