ケルセチンによるドライアイの治療・前編
出典: Frontiers in Nutrition 2022, 9, 974530
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fnut.2022.974530/full
著者: Takaaki Inaba, Mayumi Ohnishi-Kameyama, Ying Liu, Yasuhisa Tanaka, Masuko Kobori, Shusaku Tamaki, Tomotaka Ito, Kazunari Higa, Jun Shimazaki, Kazuo Tsubota
概要: ドライアイとは、涙の分泌が低下して、目の表面を潤す機能が低下する病気です。失明する可能性は殆どありませんが、目が乾くだけでなく、常に不快感があって疲れやすくなります。とりわけ、エアコンによる湿度の低下、コンタクトレンズによる涙の層の不安定化、パソコンの長時間使用による疲れが、ドライアイを悪化させる要因です。この3つをまとめて「3コン」と呼ばれる位、ドライアイは現代の生活様式に影響される病気と言えます。今回の研究では、ケルセチンの摂取でドライアイの症状を改善したことが、マウスとヒトの両方で検証されました。
遺伝子操作して、年をとると糖尿病を発症するマウスを用いて実験を行いました。糖尿病のドライアイになりやすい性質を利用しました。糖尿病が発症したマウスを2つのグループに分け、片方は0.5%のケルセチンを含む餌を与え、もう片方はケルセチンを含まない餌で飼育しました。また、正常マウスも別に用意して、比較対照としました。
12週間後に、それぞれのマウスの涙の量を調べました。マウスの目の下に糸を置き、30秒間で湿る部分の長さをもって涙の量としました。測定は右目と左目の両方で行い、その合計した値を比較しました。データは、正常マウスが11 mm、糖尿病マウスの非ケルセチン群が6 mm、ケルセチン群が9 mmでした。従って、糖尿病の影響でドライアイが発症すると、涙の量は半分近くまで低下しますが、ケルセチンの投与で改善されました。次に、より正確なデータを得るべく、摘出した涙腺組織の重さを測りました。データは、正常マウスが1.5 mm/mg、糖尿病マウスの非ケルセチン群が0.8 mm/mg、ケルセチン群が1.5 mm/mgでした。ゆえに、この指標で評価する限り、糖尿病を発症しても、ケルセチンの摂取でドライアイが正常と同じ程度まで回復したことになります。
糖尿病になると、活性酸素種という老化や病気の原因になる物質が盛んに作られて、全身に悪さをすりことが知られています。ドライアイになるのは、涙腺組織にこの活性酸素種が増えたためと考えられます。そこで、活性酸素種を除去する酵素の量を、それぞれのグループの涙腺組織で比較しました。正常マウスを1とした時の相対量は、非ケルセチン群が0.8で、ケルセチン群では2.1でした。面白いことに、ケルセチンを摂取すると、正常マウス以上に涙腺組織で活性酸素種が除去できることが分かりました。たとえ糖尿病になっても、涙の分泌量が減らないのは、活性酸素種に対抗できる体質に変わるからで、その鍵はケルセチンの摂取でした。
キーワード: ドライアイ、糖尿病、マウス、ケルセチン、涙、涙腺、活性酸素種