ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ケルセチンによるドライアイの治療・後編

出典: Frontiers in Nutrition 2022, 9, 974530

https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fnut.2022.974530/full

著者: Takaaki Inaba, Mayumi Ohnishi-Kameyama, Ying Liu, Yasuhisa Tanaka, Masuko Kobori, Shusaku Tamaki, Tomotaka Ito, Kazunari Higa, Jun Shimazaki, Kazuo Tsubota

 

前編から続く

概要: マウスで有望な結果が得られたので、研究の中心はヒトに移ります。しかし、ケルセチンがドライアイの患者さんに効くか否かをいきなり試験するのはハードルが高いため、まずは健常人の試験を設定しました。健康な被験者がケルセチンを多く含む玉ねぎを食べた際の、目と涙の質に与える影響を調べたのが、今回の研究です。

平均年齢が28.9歳の健康な被験者7名(男性4名、女性3名)を、ランダムに2群に分けました。片方は介入群として、ケルセチンを多く含む玉ねぎ粉末(ケルセチン含量: 4.4 mg/g)を摂取しました。また、もう片方はケルセチンが少ない玉ねぎ粉末(ケルセチン含量: 0.28 mg/g以下)を摂取して対照群としました。それぞれの玉ねぎを1日に23 g摂取することを5日間継続し、後述する目と涙の検査を行いました。その後3日間の休止期間を経て、体内のケルセチンを排出した後、摂取対象の玉ねぎを入換えて、同様の摂取と検査を行いました。このように被験者が両方の試験食を摂取する方法をクロスオーバーと呼びますが、少ない被験者数でも十分なデータが得られる利点があります。また、1日目の摂取後には採血を行い、血液中のケルセチンを分析しました。その目的は、介入群の血中ケルセチン濃度が対照群よりも高まったことの確認です。

目と涙の質に与える影響を知るべく、涙液層破壊時間という検査を行いました。まばたき直後には、涙が角膜(目の黒い部分)を覆う膜を作ります。時間が経過するに従い、涙の膜が壊れてしまい、角膜が露出します。この涙の膜が壊れるまでの時間を涙液層破壊時間と呼びますが、短くなると涙の膜が不安定と判断されます。従って、涙液層破壊時間は涙の質を示す指標ですが、10秒以上が正常、5秒以下だとドライアイと診断されます。試験食の摂取前後における、涙液層破壊時間を比較しました。対照群の摂取前は11.4±2.8秒であり、摂取後が11.1±2.5秒で全く変化しませんでした。しかし介入群は、摂取前が9.7±1.6秒であり、摂取後が16.6±3.3秒で大幅に延長されました。今回の試験はは健常者が被験者であったため、異常を改善した結果ではなく、健全な状態であっても涙液層破壊時間が長くなりました。ケルセチンには、涙の膜を安定化する働きがあることが示された結果でした。また、涙の組成を調べたところ、介入群では対照群よりも活性酸素種が減少したことが分かりました。全編で述べたマウスの実験と同様に、ケルセチンは活性酸素種を除去する働きをします。その結果として、涙の質の向上につながりました。

まだ予備的な段階ですが、ケルセチンがドライアイの治療薬として実現する期待を抱かせてくれる、実に画期的な成果と言えましょう。

キーワード: ドライアイ、涙、ケルセチン、玉ねぎ、ヒト試験、涙液層破壊時間