精神的なストレスはうつに加えて肝機能異常も招くが、いずれもケルセチンが回復する
出典: Food & Function 2023, 14, 1726-1739
https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2023/fo/d2fo03277e/unauth
著者: Siqi Jia, Ruijuan Wang, Dongyan Zhang, Zhiyu Guan, Tingting Ding, Jingnan Zhang, Xiujuan Zhao
概要: 精神的なストレスを継続して与えると、うつ病を招くことは容易に想像できます。しかし、うつに加えて、精神ストレスは肝臓の働きまで損なうことが、今回の研究で明らかになりました。一見、うつと肝機能とは無関係に思えますが、実は深くつながっていることが初めて示されました。両方が一体ですので、ケルセチンを飲むとうつと肝機能は同時に改善されました。
ラットを2つのグループに分け、片方にはストレスを与えず、もう片方には8週間継続して、予測が不可能で軽度なストレスに晒します。その内容は、24時間の絶食、6時間の体の拘束、昼は暗所に置き夜には照明する昼夜逆転、4℃の冷水に5分間入れる、5分間尾をつねる、1 秒間に 1 回 水平方向に振ることを15 分間継続…と異なるストレスを日替で与えます。ストレス群はさらに、ケルセチンを投与しない、10 mg/kgを投与、50 mg/kgを投与の3つのグループに分け、後の2グループにはストレスを与えながら、同時にケルセチンの投与も8週間継続しました。
予想通り、精神ストレスの継続はうつを誘発しました。ストレスを与えない正常ラットは砂糖を好んで食べますが、ストレスを与えケルセチンを投与しないグループは砂糖に見向きもしません。ところが、ケルセチン50 mgのグループは砂糖の好みが回復して、ストレス下でもうつが予防できました。
次に、人間の健康診断と同様に、血液中のALTとASTを検査しました。本来ALTやASTは肝臓に存在してアミノ酸を代謝する酵素としての働きをする筈ですが、肝機能が低下すると血液に流れ出して、血中濃度が上昇します。実際、ストレスは正常と比べてALTとASTを大幅に上昇し、ケルセチン10 mgでもほとんど変わりませんでした。しかし、ケルセチン50 mgが顕著に減少しました。ちなみに、正常・ケルセチンなし・ケルセチン10 mg・ケルセチン50 mgにおける血液1L中のAST量は、130ユニット・220ユニット・200ユニット・160ユニットでした。従って、ストレスは肝機能に異常をもたらしますが、50 mg/kgのケルセチンが改善しました。
うつと肝機能との関連を探るべく、肝臓内で起きた物質の変化を調べました。ストレスはメチオニンというアミノ酸を増やしましたが、ケルセチンが軽減しました。反対に、肝臓にてメチオニンが変化して生じるS-アデノシルメチオニンは、ストレスによって減少し、ケルセチンが上昇して回復しました。ストレスで肝臓の働きが低下したため、メチオニンのS-アデノシルメチオニンへの変換が滞り、メチオニンが肝臓に蓄積しました。S-アデノシルメチオニンは、脳の神経伝達物質の大切な原料です。これが肝臓で不足して、神経伝達に異常が生じてうつになったと解釈できます。肝臓の本当の役割は、栄養分を体に必要な物質に変換するためであり、アルコールの処理は副業に過ぎません。
キーワード: 精神ストレス、ラット、うつ、肝機能、メチオニン、ケルセチン