ヒペロシドによるアルツハイマー病の改善・前編
出典: Redox Biology 2023, 61, 102637
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2213231723000381
著者: Lin Lin Song, Yuan Qing Qu, Yong Pei Tang, Xi Chen, Hang Hong Lo, Li Qun Qu, Yun Xiao Yun, Vincent Kam Wai Wong, Rui Long Zhang, Hui Miao Wang, Meng Han Liu, Wei Zhang, Hui Xia Zhang, Joyce Tsz Wai Chan, Cai Ren Wang, Jian Hui Wu, Betty Yuen Kwan Law
概要: ケルセチンの類似物質の一つに、ヒペロシドがあります。ケルセチンに1個の糖が結合した形です。今回の研究では、アルツハイマー病のマウスにヒペロシドを鼻から注入すると、主症状の記憶障害を改善したことが実証されました。
アルツハイマー病は脳神経が変性する病気ですので、有効成分は脳で働く必要があります。このため、ヒペロシドを脳に届けるための投与方法を検討しました。マウスを2つのグループに分け、片方は20 mg/kgのヒペロシドを尾に注射し、もう片方には鼻へ注入しました。脳組織のヒペロシドを分析した結果、注射では最大で12.8 ng/gのヒペロシド濃度を示し、12時間程度で脳組織から消失しました。一方、鼻注入では最大濃度は注射と同様ながら、消失時間は10倍の120時間となりました。
遺伝子操作して、年をとるとアルツハイマー病を発症するマウスを用いて実験を行いました。このマウスが20週齢に達した時の記憶力を、遺伝子操作しない正常マウスの20週齢と比較すべく、Y字迷路試験という実験を行いました。マウスが通れる3本のアームを用意して、Y字につなぎます。この中にマウスを入れ、9分間自由に行動させた後、試験を開始します。マウスが餌を求める際には、未知の場所に入る習性を利用する実験です。3回連続して異なったアームに入った回数を数えます。この回数の割合が多い程、前に入ったアームがどれかを覚えていますから、短期的な記憶を評価する指標になります。正常のマウスの該当の割合は75%でしたが、遺伝子操作したマウスでは55%に落ち込み、20週齢になると記憶障害が現れることが示されました。
遺伝子操作したマウスの記憶障害が確認できたので、ヒペロシドの効果を検証しました。記憶障害があるアルツハイマー病のモデルマウスを2分して、片方にはヒペロシドを投与し、もう片方には投与しないで比較しました。先程の知見に従い、80 mg/kgのヒペロシドを鼻から注入しました。投薬期間は20~27週齢の7週間として、28週齢に再びY字迷路試験で記憶力の評価を行いました。比較対照の正常マウスでは、20週齢の時と同様に、3回連続して異なったアームに入った割合は75%でした。ヒペロシドを投与しないと40%に低下し、記憶障害は更に悪化しました。驚くことに、ヒペロシド群では、正常と同様の75%を示しました。20週齢で記憶障害が認められたにも拘わらず、その後7週間のヒペロシドの鼻注入にて、正常と同じレベルまで回復したのです。
キーワード: アルツハイマー病、記憶障害、マウス、ヒペロシド、鼻注入、Y字迷路試験