ケルセチンは、糖尿病に伴う肝脂肪の蓄積を抑制する・前編
出典: Phytomedicine 2023, 113, 154703
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0944711323000636
著者: Tingting Yang, Yiying Wang, Xinyun Cao, Yuting Peng, Jiawan Huang, Li Chen, Jiale Pang, Zhenzhou Jiang, Sitong Qian, Ying Liu, Changjiang Ying, Tao Wang, Fan Zhang, Qian Lu, Xiaoxing Yin
概要: この連載では、ケルセチンが糖尿病に効く動物実験のデータを再三示しています。今回の研究では、糖尿病に伴う肝臓への脂肪の蓄積も、ケルセチンが抑制することが実証されました。
遺伝子操作して、年をとると糖尿病を発症するマウスを用いて実験を行いました。マウスを4つグループに分け、1) ケルセチンの投与なし、2) 低用量として50 mg/kgのケルセチン、3) 中用量として100 mg/kgのケルセチン、4) 高用量として150 mg/kgのケルセチン、の処置をそれぞれ行いました。これとは別に比較対照として、糖尿病でない正常なマウスも用意しました。
8週間の投与期間を経た後に検査をすると、1)には血糖値が上昇する典型的な糖尿病の特徴が見られました。また、肝臓が肥大し、肝機能が低下し、肝臓には脂肪が蓄積しました。これは、糖尿病が誘発した非アルコール性脂肪肝疾患(以下、NAFLD)、すなわち、お酒が原因でない脂肪肝の症状です。ケルセチンは、糖尿病の症状もNAFLDの症状も改善し、その効果の度合いには2) < 3) < 4)という用量依存性が見られました。例えば、肝臓に蓄積された脂肪酸の量は、正常マウスで6.0 μmol/gのところ糖尿病とNAFLDを発症した1)では8.0 μmol/gに上昇ました。ケルセチンの効果として、2)~4)では7.5, 7.0, 6.5 μmol/gと段階的に下がったのが、用量依存的な効果と言えます。
ケルセチン投与の有無や投与量の違いが何をもたらしたか、次の実験として肝組織の変化を調べました。目立った変化は、YY1という蛋白質に現れました。正常マウスの肝臓中の発現量を1.0とすると、1)~4)それぞれで1.7, 1.4, 1.3, 1.1となりました。糖尿病とNAFLDで発現が上昇しますが、ケルセチンが用量依存的に低減し、正常に近づけました。面白いことに、YY1は少し変わった挙動を示し、細胞内の分布に独特の特徴がありました。肝組織を構成する肝細胞において、核と核以外の部分である細胞質に分けて、その相対比率を比較しました。先程と同様に正常マウスの発現量を1.0として、核内では、1)~4)それぞれで2.5, 2.2, 1.6, 1.2となりました。一方、細胞質内では、逆の結果である0.4, 0.5, 0.6, 0.8を示しました。従って、ケルセチンはYY1の全体量を低減しながらも、細胞レベルでは核内への移行を減らし、細胞質に留まらせたことが分かります。
YY1は核転写因子という範疇に属し、核内に移行して初めて働く蛋白質です。ケルセチンはYY1の量を減らすだけでなく、その働きまで抑制したことが分かります。では、ケルセチンによるYY1の阻害が、肝脂肪の低減効果とどう関係するのでしょうか?これを解明した実験は、続編で述べたいと思います。
キーワード: 糖尿病、NAFLD、マウス、ケルセチン、肝脂肪、YY1