ケルセチンは、糖尿病に伴う肝脂肪の蓄積を抑制する・後編
出典: Phytomedicine 2023, 113, 154703
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0944711323000636
著者: Tingting Yang, Yiying Wang, Xinyun Cao, Yuting Peng, Jiawan Huang, Li Chen, Jiale Pang, Zhenzhou Jiang, Sitong Qian, Ying Liu, Changjiang Ying, Tao Wang, Fan Zhang, Qian Lu, Xiaoxing Yin
概要: 年をとると糖尿病と非アルコール性脂肪肝疾患(以下、NAFLD)を発症するマウスにて、ケルセチンが症状を改善した有望な結果が得られました。また、ケルセチンがYY1という蛋白質を低減し、かつ、その働きも抑制しました。続く研究として、ケルセチンによる症状の改善とYY1との関連を調べました。
その前に、2021年から翌2022年にかけて中国の徐州医科大学病院で集めたデータの解析を行いました。糖尿病と診断されNAFLDを併発していない患者さん50名と、糖尿病と診断されNAFLDを併発した患者さん50名のデータを比べたところ、興味深い事実が判明しました。NAFLDを併発していなければ肝機能が正常で、併発すると異常が見られるのは当然ですが、血液検査に著しい違いがありました。NAFLDを併発すると、血中のコレステロールと中性脂肪が異常に上昇しますが、反対に胆汁酸は低下しました。全部のデータと統計処理した所、血中の胆汁酸濃度は、コレステロールと中性脂肪の両方の濃度と、負の因果関係を示しました。従って、コレステロールと中性脂肪が増加すると、それに伴い胆汁酸が減少することが発見されました。
そこで改めてマウスの実験を見直し、血液のコレステロール・中性脂肪、胆汁酸を分析しました。その結果、中国人の患者さんと同じ挙動が確認できました。遺伝子操作したマウスは、正常と比べてコレステロールが中性脂肪が上昇し、胆汁酸が低下しましたが、ケルセチンの投与量に従い改善され、特に高用量の4)では正常近くまで回復しました。
胆汁酸とは、体内でコレステロールが変化して作られます。コレステロールを胆汁酸に変換する酵素は4種類ほど知られていますが、うち3種の酵素は、いずれのグループのマウスでも変動が僅かでした。しかし、CYP7A1なる酵素のみ、糖尿病とNAFLDを発症したマウスにて正常の半分以下となり、ケルセチンの投与量が増加するに従って、段階的に改善されました。
次に、ケルセチンが増やしたCYP7A1と、前編でケルセチンが減少して働きを抑制したYY1との関連を調べました。両者を直接作用した所、CYP7A1とYY1とは良好に結合することが分かりました。しかも、YY1が結合したCYP7A1はその働きが失われ、YY1が離れると再び働くようになりました。
これで全ての謎が解明しました。年をとると糖尿病とNAFLDを併発するマウスは、YY1が異常に上昇します。その結果、コレステロールが胆汁酸に変換されなくなりました。しかし、ケルセチンはYY1を減少するので、再び胆汁酸が作られるようになり、糖尿病もNAFLDも回復して、肝組織の脂肪蓄積を解消しました。
キーワード: 糖尿病、NAFLD、胆汁酸、コレステロール、CYP7A1、YY1、ケルセチン