ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

アレンドロン酸が有する骨粗鬆症の治療効果は、ケルセチンが増強する

出典: Molecular Biology Reports 2023, 50, 3693–3703

https://link.springer.com/article/10.1007/s11033-023-08311-w

著者: Sima Mousavi, Sina Vakili, Fatemeh Zal, Amir Savardashtaki, Morteza Jafarinia, Soudabeh Sabetian, Damoun Razmjoue, Ali Veisi, Omid Azadbakht, Mohamad Sabaghan, Hamid Behrouj

 

概要: 人が亡くなると遺骨をお墓に埋葬するように、骨とは永遠不滅の物と思われがちです。しかし、それは事実ではありません。体内では新しい骨が作られ(骨形成)、古い骨が壊される(骨吸収)ことが繰り返され、骨は絶えず生まれ変わっています。世界に約2億人の患者さんがいる骨粗鬆症は、骨形成と骨吸収とのバランスが崩れ、骨吸収のみが活性化します。その結果、骨が減少し、もろくなるので、わずかの衝撃でも容易に骨折してしまいます。今回の研究では、骨粗鬆症の治療薬として汎用されているアレンドロン酸の効果を、ケルセチンが増強することが示されました。

女性ホルモンには、骨形成と骨吸収とのバランスを維持する働きがあるので、骨粗鬆症の主原因は女性ホルモンの不足です。閉経後の女性に骨粗鬆症が多いのは、急速に女性ホルモンが減少するためです。そこで、閉経後の女性ホルモン不足をシミュレーションすべく、ラットの卵巣を摘出しました。卵巣摘出後、12週間に渡って以下の処置を行いました。1) 薬物投与なし、2) アレンドロン酸(5 μg/kg)の単独投与、3) アレンドロン酸(5 μg/kg)とケルセチン(15 μg/kg)の共投与。これとは別に卵巣摘出しない正常なラットも、比較対照として用意しました。

12週間の投与期間が終了して、各グループの後肢の骨を調べました。足の内側にある脛骨の体積は、正常ラットの460 mm3に対して、1) では270 mm3に低下しました。2)と3)はそれぞれ、360および360 mm3になり、アレンドロン酸とケルセチンによる増強を端的に示しています。特に両者の併用は、ほぼ正常値に回復しました。次に、骨梁(こつりょう)という骨の内部組織の体積を調べました。骨梁は、文字通り建物の梁(はり)のように、内側から骨を支える働きをしますが、正常ラットでは160 mm3でした。骨粗鬆症を発症した1)では、75 mm3と半分以下に減りました。しかし、アレンドロン酸の2) では120 mm3に増え、ケルセチンを加えた3)は正常と同等の160 mm3を示しました。以上の結果は、骨量の減少と骨がもろくなる、典型的な骨粗鬆症の症状をアレンドロン酸が回復し、ケルセチンと組合せると正常化に至ることが明確になりました。

後肢の骨で何が起こったか、細胞レベルで詳しく調べました。骨組織を構成する骨細胞の数は、正常ラットで約4000万個ありました。1)で約2000万個に減りましたが、今までとは違い、2)では回復せず約2000万個のままでした。しかし、3)では正常と同じ約4000万個でした。アレンドロン酸単独では骨細胞の数が回復せず、ケルセチンが存在して初めて増えることを意味します。そこで、細胞死を誘導する蛋白質と、細胞死に抵抗する蛋白質の発現状況を調べました。予想通り、1)と2)は同じで、3)のみに改善効果が見られました。従って、アレンドロン酸による骨粗鬆症の治療効果をケルセチンが増強した現象の本質は、ケルセチンによる細胞死の抑制でした。

キーワード: 骨粗鬆症、ラット、卵巣摘出、アレンドロン酸、ケルセチン、脛骨、骨梁、細胞死