ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ルチンは寄生虫を駆除し、肝組織の炎症を回復して、住血吸虫症を改善する

出典: Nutrients 2023, 15, 1206

https://www.mdpi.com/2072-6643/15/5/1206

著者: Rabab S. Hamad

 

概要: 住血吸虫症とは、寄生虫に起因する病気で、内臓に激しい炎症を誘発します。日本ではなじみが薄い存在ですが、東南アジアやアフリカを中心に約2億人の患者さんがおり、毎年約20万人の死者が出ています。今回の研究では、ケルセチンに糖が2個結合したルチンが、寄生虫に感染したマウスに対して住血吸虫症の治療効果を示しました。

100匹の寄生虫をマウスの尾に注射して感染させ、以下の処置を行いました。1) 薬物投与なし、2) ルチン(40 mg/kg)の1日1回投与を40日間継続、3) 感染した7週間後に、既存薬であるプラジカンテル(500 mg/kg)を2日連続して投与。これとは別に、寄生虫に感染させない正常なマウスも、比較対照として用意しました。

それぞれの処置期間が終了して、肝臓と糞に含まれる寄生虫の卵の数を調べました。各グループのマウス10匹の平均として、肝臓では1)が5170±809個、2)が758±33個、3)が129±10個となりました。また、糞では1)が4532±598個、2)が942±531個、3)が655±131個という結果でした。プラジカンテルには及ばないものの、薬物未処置群に比べると、ルチンは約8割の寄生虫を駆除していることが分かります。

次に、肝臓の重さを調べました。正常マウスの6.2 gに対して、1)は9.3 gであり腎肥大が進行していました。これが2)3)ともに6.2 gで、ルチンもプラジカンテルも腎肥大を正常化しています。炎症の度合を比較すべく、肝臓中に見られる肉芽腫(にくげしゅ)という、炎症による病変部位を調べました。余談ながら「腫」という文字がありますが、あくまでも炎症のバロメーターであり、癌とは関係ありません。1 mm2当たりの肉芽腫の数は、1)が17個、2)が7個、3)が9個でした。肉芽腫の平均直径は、1)が0.41 mm、2)が0.18 mm、3)が0.20 mmでした。数・大きさともに、ルチンがプラジカンテルより優れた縮小を示しており、肝臓組織の炎症をより効果的に抑制しました。最後に、肝機能を比較しました。人間の健康診断と同様に、血中のALT・AST・ALPを判断基準にします。3指標とも、1)では悪化して、2)と3)における正常との同レベルを確認しました。

以上の結果、寄生虫に感染したマウスの住血吸虫症は、ルチンが回復しました。効果を既存薬と比べると、寄生虫の駆除はプラジカンテルの方が優れ、肝臓の炎症の改善はルチンの方が良好で、総合的に見ると両者は同等です。世界保健機関(WHO)が必須医薬品に指定しているように、プラジカンテルは、非常に優れた寄生虫駆除薬です。しかし近年、プラジカンテル耐性の寄生虫が問題視され、代替薬の開発が強く望まれています。今回の結果で、ルチンがその最有力候補と言えそうです。

キーワード: 住血吸虫症、寄生虫、マウス、ルチン、プラジカンテル、肝臓、炎症、肉芽腫