ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ルチンでサルコペニアを治療できる可能性

出典: Antioxidants 2023, 12, 639

https://www.mdpi.com/2076-3921/12/3/639

著者: Young-Sool Hah, Won Keong Lee, Seung-Jun Lee, Sang Yeob Lee, Jin-Hee Seo, Eun Ji Kim, Yeong-In Choe, Sang Gon Kim, Jun-Il Yoo

概要: サルコペニアとは、加齢による筋肉量の減少と筋力の低下を指します。ギリシャ語で筋肉を意味する「サルコ」と、喪失を意味する「ペニア」を合せた造語です。65歳以上の高齢者の約15%がサルコペニアに該当し、年齢が上がるに従い割合が増大します。今回の研究では、ケルセチンに糖が2個結合したルチンが、サルコペニアのマウスに対して筋肉量を増やす効果を示しました。

全部で27匹のマウスを9匹ずつ3群に分け、以下の処置を行いました。1) 正常群として薬物処置なし、2) サルコペニアのモデルとして、筋肉の萎縮を誘発するデキサメタゾンという薬物 (20 mg/kg)の投与を2週間継続、3) ルチン(60 mg/kg)の投与を1週間継続した後に、ルチン(60 mg/kg)とデキサメタゾン(20 mg/kg)の同時投与を2週間継続。

投与期間が終了して、3か所の筋肉量を調べました。腓腹筋(ひふくきん)と呼ばれるふくらはぎの筋肉は、各グループのマウス9匹の平均として、1)が0.15 g、2)が0.11 g、3)が0.13 gとなりました。前脛骨筋(ぜんけいこつきん)と呼ばれる足首から膝にかけて脛の外側にある筋肉は、1)が0.053 g、2)が0.030 g、3)が0.049 gでした。前脛骨筋の外側にあり、膝下から足の指にまで伸びている長趾伸筋(ちょうしんしんきん)は、1)が0.028 g、2)が0.017 g、3)が0.023 gでした。3種類とも足を動かす際には重要な筋肉ですが、正常マウスの1)とデキサメタゾンで誘発したサルコペニアのモデルの2)を比較すると、筋肉量が大幅に減少しています。しかし、ルチンを投与した3)では各筋肉量が2)よりも1)に近づいており、顕著な回復を示しました。

筋肉を構成する成分は蛋白質です。筋肉の減少には、筋肉蛋白質を分解する別の蛋白質が働きます。筋肉分解蛋白質としてMuRF1・MAFbx・FOXO3の3種が代表例であり、これらの動向を腓腹筋で調べたのが、続く実験です。MuRF1に関しては、1)~3)で変化がありませんでした。2)における腓腹筋中のMAFbx量を1.0とした時の相対量は、1)が0.4、3)が0.7でした。同様にFOXO3の相対量が1)が0.6、3)が0.7でした。これらのデータは、サルコペニアによる筋肉減少の本質は、筋肉分解蛋白質の活性化であることを意味します。また、筋肉分解蛋白質の発現は、ルチンが抑制しました。

筋肉を構成する筋芽細胞を用いる実験も、別途行いました。筋芽細胞をデキサメタゾンで刺激すると筋肉分解蛋白質は3種類とも上昇しましたが、その後のルチン処置で回復することを確認しました。細胞実験の結果は、マウスで見られたルチンによる筋肉量の回復効果のミクロ版と解釈できます。

今後、高齢者社会が到来しますが、サルコペニアは避けられない問題です。今回の研究成果で、ルチンが高齢者の強い味方になると言えそうです。

キーワード: サルコペニア、マウス、デキサメタゾン、ルチン、筋肉量、筋肉分解蛋白質